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第2話

■都内某所 同黒崎芳秀邸 居間  チュンチュン……、と鳥の囀りがのどかに響いた。  縁側から差し込む春の日差しはあたたかく、美しく整えられた庭はキラキラと輝いている。  石像のように動きを止めた征一郎は、正気に戻ると脳をフル回転させて聞き間違いの可能性を探るが、何一つ思い当たるものはなかった。  芳秀は無責任発言に注釈をつけてくれる気はなさそうだし、紹介された少年は何故かにこにこと嬉しそうに微笑んでいる。  仕方がないので聞きたくはないが、聞いた。 「ほむん……くるす……ってなんだよ」 「なんだお前錬金術知らねえのか。ラノベくらい読めよ」  それは本当に錬金術に関する適切な情報源なのかおっさん。  所謂使い魔とか式神とか人造人間とかそういう人工的に作られた人間っぽい何かだ、と説明されても、目の前にいる少年は明らかに人間だ。  確かに父は、次元をずらしてほぼ同一の時間に複数の場所で存在できる、とか、実は天狗で神通力があるとかいういかがわしい噂が山ほどある謎の存在ではあるが、いくらなんでも、これを作ったというのは……。  隠し子、つまり征一郎の弟だと言われれば、すんなり納得できるのだが。 「俺にゃさっぱり話が見えねーんだが……。その錬金術やらホムなんとかと、裏社会を統べるとまで言われてるあんたと何の関係が……?」 「俺、若い頃は極道じゃなくて錬金術師になりたかったんだ☆」 「開始二話目にして何だそのトンデモ設定!?そのセリフから読者があんたのキャラを一つも想像できないんですけど!?」  一生聞きたくなかった告白に、☆じゃねえよと思わずメタなツッコミを入れてしまった。  もちろん、そんなツッコミを意に介するわけもない錬金術師気取りの極道はしみじみと語り始める。 「もともと研究費のためにやってた金儲けが上手くいきすぎて裏社会のトップになっちまったが、そろそろ飽きてきたから好きなことに打ち込もうかと思って」  最悪である。 「そんな理由でシマ奪われて傘下に降らざるを得なかった全国のヤクザに今すぐ陳謝しろ……」  だが、全国ン万の極道者よ、これが現実だ。  このチートな男が日本に君臨する限り、こんな馬鹿馬鹿しい非現実がまかり通るのだ。  悲しいかな征一郎は、生まれた時からこの非常が日常だったので、脳が理解を拒否する部分はスルーして今そこにある現実のみを受け入れるという術に長けすぎていた。 「…………で?その怪しげな錬金術とやらで作ったってのか?これを?」  とにかく話を進めてこの男から解放されることだけを考えて細かいことは気にしない。 「おう。ペットでも身の回りの世話にでも何でも使え。人間より回復力も高いから弾避けにすんのもいい」  ……というわけにもいかないような非人道的な発言に「おい」と待ったをかける。 「馬鹿野郎!こんなのを弾避けに使えるわけねーだろ!こんなプルプルした小動物みたいな……?」  そこで立ち上がった少年が、ちょこちょこと近寄ってきて縋るようにスーツの裾を掴んだ。  黒目がちの澄んだ大きな瞳が、じっと上目遣いに征一郎を見つめている。  征一郎は思い出してはいけないものを思い出して、息を呑んだ。

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