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第3話

■都内某所 同黒崎芳秀邸 征一郎脳内  しとしとと降る雨。  傘を差し足早に通り過ぎる人々は、その存在に見向きもしない。  足を止めたのは、誰からも必要とされていないその者の境遇に、世間の鼻つまみ者の極道である己の身を重ねてしまったからか。  段ボールの中から見上げる無垢な双眸。  それは…… 「(アニマル……………)」 ■都内某所 同黒崎芳秀邸 居間  征一郎を見上げてくる少年の瞳は、雨の日に捨てられている動物そのものであった。 「(っお、落ちつけ俺……!こいつは別に捨てられてるわけじゃねえ……!)」  耐えきれず、目を逸らす。  黒崎征一郎……人類最強と謳われるその武力で、内外を問わず恐れられているほどの武闘派極道である。  そんな征一郎の最大のウィークポイントが、動物だった。  倒壊するビルも、暴走トラックも殺すことのできないこの男が恐れる唯一のこと、それが……、  動物との死別  である。  こんな弱そうなイキモノを、物騒なことの多い自分の日常に置いておけば、急なカチコミなどに巻き込まれる可能性がある。  征一郎の脳内に、起こりうるであろう恐るべき想像が展開された。 ■都内某所 同黒崎芳秀邸 征一郎脳内再び 鉄砲玉「死ねやあ黒崎ぃ!」  ズキューン!(銃声) 舎弟「組長!」  ドサッ……(征一郎をかばって撃たれた少年が倒れる音) 征一郎「ポチ(仮)!お前…っ俺をかばって……!」 ポチ(仮)「きゅーん……(訳:征一郎大丈夫……?)」 征一郎「馬鹿喋るな!今医者に連れてってやるからな…!」 ポチ(仮)「きゅーん……(訳:おれ、征一郎の役に立てて……よかっ……)」  ガクッ(事切れるポチ(仮)) 征一郎「ポチ(仮)------------!」 ■都内某所 同黒崎芳秀邸 居間  腕の中で冷たくなっていく体を想像するだけで涙が止まらない。  実家を出たのも、やたらと庭にやってくる猫たちの死に直面することが多いから……という理由もあった。  このことは黒神会の中でも身内のごく一部の者しか知らない。  弱点を知った不心得者が動物を人質にしたりする可能性があるので、現在最も黒神会二代目に近いとされている征一郎の存在を煙たく思うような者たちに、知られるわけにはいかないのだ。 「かっ………かわいそうじゃねえか!」  滝涙しつつ、生きていることを確かめるように思わずポチ(少年)の体を抱き締める。  だが、征一郎の抗議などどこ吹く風で煙草をふかしている芳秀から煙とともに吐かれた言葉は、無情なものだった。 「壊れたらまた新しいの作ってやるから」 「人でなしーーーーーー!」  征一郎の絶叫が屋敷内に響きわたった。

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