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第5話

「俺が言いたかったのは、お前にも選ぶ権利があるってことだ。全部勝手に決められちまって、お前はこの展開に一つの不満もねえのか?」  屈むことで目線を合わせ、親指で涙を拭ってやると、少年…ちびは、じ…っとあまり感情を感じられない表情で征一郎を見ていたが、ぱっと背後を振り返った。  視線を受けて、芳秀が頷く。 「お前の思ったことを言っていいぞ、ちび」  再び征一郎の方に向き直った顔には、懇願の色があった。 「俺……征一郎と一緒に行きたい」  密かに勝手な鳴き声を想像していたが、普通に話ができるようだ。 「弾除けでも何でもして、きっと征一郎の役に立つから……!」  スーツの裾を掴む小さな手、ひたむきな瞳、健気な言葉にぐっと詰まる。  雨の日のアニマルリターンズ。  数いる動物の中でも、とりわけ犬や馬のような人に忠実な生き物は苦手である。見ただけで涙が止まらない。 「わかった、いいから……!一緒に来ていいから、役に立とうとか考えんな……!」  それ以上言うなと小さな体を抱き締めた。  芳秀の『弱いな』というなまあたたかい表情が目に入るが、無視する。 「征一郎お前、極道なんざやめて動物園にでも務めちゃどうだ?」 「うるせーな。こんなイキモノ泣かせんのは誰だって夢見が悪いだろうが。あと動物園は駄目だ。涙が止まらねえ」  正直なところ、征一郎は自分が極道でよかったと思う。  動物園がバトルフィールドになることはまずない。 「ガチだなお前も」  軽く笑って立ち上がった芳秀は、征一郎にくっついているちびの頭に手を置くとくしゃくしゃと髪をかき混ぜた。 「ちび、こいつはお人好しだから強引に迫ればきっと夜もうんとかわいがってもらえるぞ。上手くやれよ」 「おい待てコラ変態親父。何言ってやがんだ」  当然のツッコミに、しかしちびは大きく頷いている。 「はい…!いざというときは芳秀さんに教えてもらったアレやソレで頑張ります…!」 「お前も待て!その『アレ』や『ソレ』は実行する前に検閲させろ!」  引き取るに当たって不穏すぎる。  この男はこんな子供相手に何を教えているのか。 「ちびには俺の知りうるすべてのプレイを授けてあるからな」 「外道ーーーーーーー!」  知ってはいたが本当に道を外れていた。  天国のお袋、このドクズに天罰を!

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