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第6話

■都内某所 同黒崎芳秀邸 玄関  外道に憤った勢いのまま、ちびの手を引いて玄関まで戻ってくると、そこには腹心である篠崎(しのざき)が待機している。  黒いスーツ、日本家屋が狭そうに見える柔道家のような鍛え上げられた肉体と、サングラスをかけた目元には一筋の傷。絵に描いたような極道の男だ。  篠崎は征一郎がまだ子供と呼べる年齢だった頃に、征一郎の母である鷹乃が家に連れてきて、それからずっと一緒に育った。  今は主従ではあるが、兄のような存在でもあり、征一郎の内面をよく知り、最も頼りになる部下である。  征一郎の姿を認めた篠崎が深く頭を下げる。 「お疲れ様です。もう会長とのお話はお済みですか?」 「ああ。この後は、一度俺の部屋に戻ってこいつを置いていく」 「はい。……失礼ですが、そちらの方は?」  当然の疑問に、征一郎は何と言おうかとちびを見下ろした。  視線を感じたのか、見上げた少年はにこっと微笑んだ。  この状況で、こんな顔をしていられることに何かとても違和感を感じる。  ホムンクルス……とは、一体何なのか。  今更だが自分は何を連れてきてしまったのだろう。 「何……だろうな……?俺が聞きたい…」  征一郎の世界の果てを見てきたような目を見て、黒崎芳秀という男のことをよく知っている篠崎は何かを察したのだろう。それ以上は何も聞かなかった。  「ところで」と空気を変えるように咳払いをする。 「その…お着替えをご用意しますか?せめて靴はあった方が」 「……あ?」  篠崎の言葉に、改めて、玄関からちょろちょろと出ていくちびの姿を見た。  春の風にさらさらとなびく柔らかそうな髪。大きく開いた襟ぐりからのぞいた首筋から続く華奢な背中。  襟が高く見えるのは、サイズの合わないワイシャツをすっぽりかぶっているせいだろう。  ワンピースのようになっている裾からは細い生足がのぞき、地面を踏んでいるのは素足だ。 「ってそういやお前は何でそんな恰好なんだよ!?」  今更過ぎるツッコミに、ちびが驚いた顔で振り返る。 「えっ駄目なの?でもおれ……これでも不自由ないけど……」 「まったく気にしなかった俺も俺だが、せめて下になんか穿け!なんであの親父は何も言わねんだ」  不思議そうにちょんとワイシャツの裾をつまんだちびに、征一郎は頭を抱えた。  最初は芳秀の愛人かと思っていたので格好のことなどよく見ようとも思わなかった。  その後はアニマルの枠に入っていたので、柄(服)のことなど考えもしない。  征一郎は当然、見た目で動物の価値を決めたりはしない……が、確かに言われてみれば『少年』つまり『ヒト』であるわけで、装いについては考える必要があったのだ。  金はうなるほどあるはずだというのに、何故こんな、その辺にあったものを着せただけなどという非人道的なことをするのかと、征一郎が再び実父の非人道的さに対して憤ると。 「芳秀さんはこれが一番かわいいって」 「……よし。あのおっさん殺しに行くぞ」  非人道的なだけではなく、変態趣味でもあったと、額に青筋を立てた征一郎は拳を握り締めて踵を返した。

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