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第31話
「ごちそうさまでした」
すっかり血色のよくなったちびが、満足そうに手を合わせる。
征一郎は敗北感に打ちのめされながら、どこか遠くにその声を聞いていた。
「……征一郎?……あの…………やっぱり嫌だった?」
反応のない相手が、嫌悪感を抱いていると思ったのか、ちびが心配そうに上目遣いで聞いてきた。
うっと征一郎は言葉に詰まる。
嫌、ではなかった。
嫌どころか、
「(尋常じゃねえテクで最短記録更新したとかは俺にも一応人並みに見栄っつーもんがあるしこいつのためとはいえ正直言いたくねえーーーー!)」
ちょっと、あまりにも、予想外の事態すぎて、この事実を受け止めきれていない。
襲われたというより、奪われた。
何か男として大切なものを失ってしまったような、そんな気分である。
数分前。
「んっ……」
目を瞠るほどの手際よさでベルトを外し、前を寛げ目的のものを手にしたちびは、まだ反応していないそれに舌を這わせ始めた。
征一郎の体躯にふさわしく質量のあるものを、ちろちろと這いまわる小さな舌がいやらしく、そういう趣味はなかったはずだが、子供に奉仕をさせているような背徳感が腰を疼かせる。
やがてそこが反応を始めると、もう待ちきれないというように食いつかれた。
「っ……」
いや、ちょっと待て。
異変に気付いたのは、そんなに入るのかという喉奥まで、己の長大なものが小さな口の中に消えていった時だ。
どこをどうされたものか、もはやよく思い出せないが、とにかく今まで体験したことのない名器すぎる喉奥とツボを心得すぎた吸引で、気付いた時にはヘヴンへ連れていかれていた。
征一郎は、それでも見上げてくるちびを不安にさせてはいけないと、震える唇を開いた。
「……よ、………………よかったぜ?」
我ながら、悲しすぎる見栄だ。
普段はもっとできる子なんだよ本当だよとわめきたい気持ちを抑えながら、なんとなく引けた腰のまま前を整える。
「本当……!?」
有難いことにというべきか、ちびは男の耐久時間について考えることはなく、褒められたことを素直に喜んだようだ。
「芳秀さんにたくさん習っておいてよかった…!」
ドサッ。
満面の笑顔の一言に征一郎は完全にとどめを刺されて、フローリングに倒れ込んだ。
「(そうだった……奴の仕込みだった…!)」
この絶望感を、何に例えたらよいのか。
あの男の哄笑が聞こえてくる気がする。
「せ、征一郎、どうしたの?大丈夫?」
「気にするな…。無事役目を果たせて気が抜けただけだ…」
ショックが大きすぎて、応じている自分が何を言っているのかももはやよくわからない。
次を望まれた時、己のものはちゃんと役に立つのだろうかと、征一郎はとても不安な気持ちになった。
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