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幕間1
掃除に洗濯、大体の家事を終えてしまい手持ち無沙汰になったちびは、一人で寝るには広すぎるベッドに転がった。
征一郎は本日の朝食も遠慮したちびに『あんまり張り切って家事するなよ』と釘を刺してから出掛けて行ったが、体には不調なところはない。とても元気である。
ただ……、
「(お腹減った…。征一郎の、欲しい…)」
そっとぺったんこな腹部に手を当てると、切ないような、寂しいような初めての感覚を覚えて、ちびは不安になって眉を寄せた。
このせいで、今朝も食物を摂ろうと思えなかったのだ。
征一郎から補給をしてもらったのは、つい昨日のことである。
「(変だな……。本当に、一昨日くらいまでは空腹感すら覚えてなかったのに。征一郎のを飲んだ途端、なんか…)」
あれ以来、体の中で何かが変わってしまったような違和感を感じていた。
エネルギーが枯渇した時の焦げ付くような飢餓感ではない。
体に不調がないことからも、足りなかったということではないことが分かる。
美味しいものを、もっと食べたいと思う気持ちと同じだろうか?
あの時は食欲に支配されていたため、詳細な記憶は曖昧だが、征一郎のものを口にした瞬間の幸福感はあまりにも鮮烈だった。
それをまた味わいたいからだったとしたら、麻薬並みの依存性である。
征一郎が戻ったら、今日も欲しいと強請ってもいいのか、もしくは「いるか?」と聞かれた時にどうするか。
昨日の今日なのに。
遠慮せずに言えとは言われたものの、空腹かどうかもわからない状態で、いただいてもいいのだろうか。
ちびは苦悩してうんうん唸り、やがて脱力して溜息をついた。
「(…征一郎はどうしてあんなにいい人なんだろう…)」
世界中、いや宇宙中の穴という穴はすべて自分のもの。有機物でも無機物でも妊娠させられると自他ともに認める外道非道獣道の芳秀のようなどクズならば、気軽に頼むこともできたのに。
征一郎がそんな人間であれば、特に好きになっていなかったかもしれないが。
……そんな征一郎も少しだけ見てみたいと思うのは、罪深いことだろうか。
余談だが、芳秀に試用を頼むとオナホが妊娠するという都市伝説があるそうな。
……こんなはずではなかった。
だらだらと余計なことまで考えていたちびは、一つ首を振り己を戒める。
望みすぎるな。
たった一瞬でいいと思っていたはずだ。
征一郎は優しすぎるので、ちびは幸福すぎて己の立場を忘れそうになる。
記憶に刻み付けるように、始まりの日のことを思い出す。
あれはまだ寒い日が続いていた頃。
見上げた空は高く、そしてあまりにも遠く。
己が運命を否定し続けるか弱い精神体の前に突如として現れた、優しい陽だまりを。
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