3 / 14
I'm the One
ちょんの間。
ちょっとの間で、いたす風俗で。
いわゆる裏風俗だ。
裏風俗っていうくらいだから、堂々と看板に「ちょんの間、やってます」なんて書いてるはずもなく。
表の顔は料亭だったり、旅館だったり、昼間っから開いてるスナックだったり。
表の店から入って、裏の入り口に一歩足を踏み入れると、そこはもう、ちょんの間なんだ。
でも、注意しないと。
裏風俗なんだよ。
許可なんかもらってない、裏風俗だから。
本番中に警察なんかに摘発されたりなんかしたら、一発でお縄になる。
ちょんの間に行きたいなら、ちょっと多めの万札と、周りに目を配って見つからないようにすることだ。
まぁ、せいぜい尾行されないようにね。
ただ、うちのちょんの間はかわってる。
普通は、女の子なんだよね、ちょんの間にいる子は。
うちは、男だからさ。
メンズヘルスに近いのかもしれないけど、しっかり本番はするから、男性専用のちょんの間なんだ。
実のところ俺は、ちょんの間のオーナーだったりする。
まぁ、親父から引き継いだだけなんだけど。
昔はシノギの人なんかと結構な深い関係で、借金のカタに連れてこらた人とか、風呂落ちからさらに落とされるヤツとかを引き受けたりしてたんだ。
今は色んな法律ができてしまったから、シノギの人もイマイチ元気がなくってさ。
お店の子も最近じゃ、ガラッと様変わりした。
好きこのんできたり、お金を稼ぐためにきたり。
あとは、スカウトしてきたり。
だから、昔みたいに悲壮感を漂わせて、店に座る子なんてほとんどいない。
みんな場慣れ感ハンパなく、楽しそうに仕事をしているんだ。
ただ、1人。
いつも緊張して店に座って、客に肩を抱かれるだけでビクつく子がうちにはいる。
翠、って源氏名の子で、俺がスカウトしてきた子なんだけどさ......。
かわいい顔してるし、そういうの好きそうだと思ったからスカウトしたんだけど、なんちゅーか。
.......すべてにおいて、童貞だったみたいで。
俺が〝研修〟名目で抱いたら、ビービー泣くし、ビビるし、だいたいマグロだし。
俺は、頭を抱えてしまったんだ。
でも、さ。
感じて〝鳴く〟声とか。
中に入れた時の後を引く感じとか。
なんか、虜になってしまって.......。
逆にこんな感じのもウケるかも、って思った。
俺のそんなカンは大当たりで、翠は固定客がつくほどの売れっ子になってしまったんだ。
そして、翠の虜になった俺は、翠に手を出してしまうんだ.......ほぼ、毎日のように。
「........あぁ......ん......オー....ナァ」
いい声で〝鳴く〟。
体は生娘を抱くみたいに、敏感で、中はこの上なく締まっていて。
俺の首に腕を回して、恥ずかしそうによがる姿がなんとも言えずエロくて。
この俺が、見境もなく翠を抱き潰すくらい、翠に溺れて。
激しく翠を犯すんだ。
こんなにかわいけりゃ、馴染みの客もつくわな。
「今は、龍一でいいよ、翠」
「........やぁ.....りゅ....いち......」
紅潮した顔で、俺の名前を呼ぶからさ。
俺はまた興奮してしまって、翠の白くて細い体を強く抱きしめると、その奥深くを波うたせるように、突き上げるんだ。
「オーナー、ちょっとでかけてきていい......?」
ちょっと申し訳なさそうな顔をして、翠はたまにどこかにでかける。
「あぁ、いいよ。
15時には戻ってこいよ、寿町の社長さんが予約いれてるから」
「うん、わかった。行ってきます」
翠は、最初からあまり多くを語らない。
身寄りもなく、ずっと1人だった、ってことくらいしか俺も知らない。
こんなとこだし深く詮索もしないから、ひっそりとお金を稼いだり、生きていくには都合がいいんだ。
うちは表向き、〝旅館〟ということになっているし、翠たちちょんの間の子たちは〝仲居〟で、お客様の世話をする。
だからうちは一見さんお断りだ。
世の中、よくわからないヤツが多いからな。
一見さんが来るときは、常連さん付きでやってきたときだけ。
しかも、常連さんのお気に入りを一見さんにあてがう。
誰だってお気に入りの〝仲居〟をしょっぴかれたくないから、常連さんは危険なことはしないし、気のおける一見さんだけをつれてくる。
まぁ、どの世界にもあるんだよ。
持ちつ持たれつ、的な関係がさ。
「痛っ!!」
翠に虜になった俺が今日も翠を抱いていたとき、翠が小さく声を上げる。
「どうした?翠」
「胸.......痛くて.........」
俺から目をそらして、翠は恥ずかしそうな顔をして言った。
翠の両胸の真ん中が少し赤くなっていて、俺が指で弄っていると、翠は少し身をよじって、その痛みから逃れようとする。
「寿町の社長さん、胸、好きだからな」
「オーナーも、好きでしょう?」
「俺はどっちかっていうと、中が好きかな?」
俺は翠の中浅いところに指を入れて、探るように指を動かす。
そして、痛がっている翠の胸を舌で愛撫した。
「あ.....やめ......」
途端に体をビクつかせるように体をそらして、不安定な体を支えるかのように、俺の髪を掴んだ。
「寿町の社長は、こんなことする?」
「.......し....な....」
「社長と俺と、どっちが気持ちいい?」
「オー.....ナー......」
「ちがうだろ、翠」
呼吸を乱して、体をよじらせる翠の一番感じるところを、俺は弄ぶように指で強く弾く。
「やぁ!.....やめ.....」
「今はなんて呼ぶんだ?俺のこと」
「.......りゅ.....いち.....」
「忘れるなんて悪い子だな。もう、やめる?」
俺が指を抜くと、体をそらして小さく吐息をついた。
「やだ......」
そして、俺をクラクラさせるかわいい顔をして、俺の首に腕を回して、深いキスをする。
「して......龍一.......。欲しい」
「おねだりも、うまくなったな」
俺はゆっくり、翠の吸い付くように絡まるその中に入れた。
「りゅ.....いち.......好き?.....翠のこと、好き?」
いい声で鳴きながら俺の耳元で囁く翠にクラクラしながらも、俺は翠の奥を突いて言う。
「あぁ、どの子よりも好きだよ。
お前が一番だ翠」
翠は、「好き」って言葉が好きだ。
俺に好きって言って、好きを確認して、好かれていることを実感する。
こんな俺に、そういうことを言ってくること自体、翠はすでに......。
愛に、飢えてる。
翠は、愛に飢えてるんだ。
だから、俺に愛を求めて、愛されてることを確認する。
今まで翠がどんな人生を歩んできたか、わからないけど。
愛に溢れた普通の生活を送ってきてるわけではないということは、容易に想像できるんだ。
※マッポ→警察官
※札→捜索令状
※旅舎検→旅館やホテルを回って、犯人や違法操業を見つけ探すこと。
「龍一。明後日のお店の予約、全部断って」
俺の腕枕でまどろんでいた翠が、突然突拍子もないことをいいだして、めちゃめちゃ驚いた。
その声がいつもと違う........冷たい感じがして、俺は思わず翠の顔を覗き込んだんだ。
翠は天井のどこか一点を真っ直ぐ見つめて、俺になんか目もくれず、冷たい口調でさらに続けた。
「翠だけじゃないよ。
都さんも雅さんも、みんな。
帳簿は全部、寿町の社長さんに預けて」
「翠......何、急に」
「いいから」
一点を見つめていた鋭い視線を急に俺に向けると、翠は俺に覆い被さって深く唇を重ねる。
いつもより......激しく舌を絡めて。
かわいい翠じゃない、切れ味が鋭い翠で........。
でも、俺はそんな翠を振りほどくことができなかった。
か弱くて儚い翠じゃなく、冷たい炎を心に宿したような激しく強い翠を抱きしめたんだ。
「龍一、約束.....守って.....絶対」
そういい残して、翠は翌朝、俺の前から消えた。
何もいわずに、消えたんだ。
ちょんの間の子が消えるのはめずらしいことじゃない。
昔と違って借金とかしがらみのない昨今は特に、ふっと現れて、すっと消える。
そもそも翠も俺が強引にスカウトしてきたわけだから、さ。
別にいなくなろうが、どうしようが関係ないんだけど。
でも......好きな子がいなくなったら、やっぱり寂しいわけで。
そして、あの、翠の鋭い視線と冷たい口調を思い出してしまって。
気になって。
心がざわざわして。
変な予感にかられた俺は、翠の言うとおりに行動をおこしたんだ。
「どうも、相良署生活安全課の楢原です。
少しお話を伺いに来ました」
マジで、背筋が凍った。
翠の言ったこのタイミングでマッポがくるなんて........。
そして、少し、安心したんだ。
翠の言うとおり、ちょんの間の仲居たちの予約を白紙にして、仲居にはしばらく店から出て行ってもらった。
ヤバイ帳簿は全部、寿町の社長に預けたんだ。
変な腹を探られなくてすむ。
と、いうか。
翠の言うことを無視して、予約の客とか入れてたら........俺も客も、仲居も.......一発でしょっぴかれるとこだった.......。
「こんなとこまで、刑事さんも大変ですね」
「いやね、最近指名手配犯がここらへんをウロウロしてるって言うんで。
宿泊者名簿とあと部屋を見せてもらいたいんですけど」
.........札は、もってないんだ。
と、いうことは、うちの確たるシッポはつかめなかったということになる。
助かった........。
「いいですよ。
ま、こんな汚い旅館だから、宿泊客なんて微々たるもんですけどね」
「ちょんの間」
「え?」
「昔からある売春宿が、こんな感じなんですよ。細々やってる割になかなか潰れない。
もちろん違法なワケなんですけど」
「.......ウチ、ひょっとして疑われてます?」
「いやいや、お気に障ったのならすみません。
職業柄、うがった見た方をしてしまうもんですから」
「親父から引き継いだんで.......。
昔からの常連さんとか、あとはものめずらしさからか海外の方が泊まりにきます。
それくらいですかね。
うち、安かろう悪かろうなんで」
そう言って俺は、日頃からつけている表向きの帳簿を楢原と名乗った刑事に差し出す。
楢原は熱心に帳簿に目を通すフリをして、しきりに入り口を気にしていた。
「今日は、お客さんはいないんですか?」
「いつもこんな感じですよ?」
「そうですか。
あ、帳簿、ありがとうございます。
そうだ、部屋を見せていただいていいですか?」
「どうぞ、刑事さん」
刑事って、こんなもんなんだろうな。
隅から隅まで、部屋という部屋を見て楢原は微妙な笑顔を浮かべて帰って行った。
旅舎検にしては、白々しいというか、ワザとらしいというか。
........多分、ちょんの間の摘発に来たんだ。
誰だ......タレ込んだの........。
怪しい客とか、いなかったはずなのに。
ひょっとして........翠........なのか?
翠が消えた時期にマッポが来るとか......。
尋常じゃないタイミングだし........。
でも、翠は遠回しに今日の情報を俺に教えてくれたし........。
でも........でも.........。
考えれば考えるほど、翠の恥ずかしそうに笑う顔と一度だけみせた鋭く冷たい翠の顔が交互にチラついて、心がざわついてしまったんだ。
「翠ちゃん、辞めちゃったんだぁ.......。
また、帰って来ないかなぁ。翠ちゃーん」
寿町の社長がロビーで麦茶を飲みながら、名残惜しそうに言った。
まぁな、この人は本当に翠が好きだったもんな。
しばらくして、俺はまた仲居たちを呼び寄せて、またひっそりとちょんの間の営業を始めた。
翠は......翠は、やっぱり戻ってこなくて。
戻って来て欲しくて、俺はここで待ち続けてたりするんだ。
「翠ちゃんはさぁ、胸をいじってもかわいかったんだけど。
後ろ向きに攻めると枕をぎゅーって抱えてかわいく耐えるんだよねぇ。もうたまんないよぉ」
..........昼間っからこの人は、なんちゅーエロいことを言うんだ、マジで。
「そういえば、この間はありがとうございました」
「いいってことよ。困った時はお互い様だ」
寿町の社長は、俺がヤバイ帳簿を持って行っても何も聞かず、顔色も変えず、金庫にしまってくれたんだ。
親父の代からの常連さんとはいえ、頭が上がらないよ、本当。
「翠ちゃんに頼まれたら、一肌脱ぐしかねぇだろ」
「え?」
なんて?
今、なんて、言った?
「〝オーナーが社長を訪ねてきたら、何もいわずに言うことを聞いてあげて〟って、あんなにかわいくおねだりされちゃったらさぁ。
もう、言うことを聞くしかないだろうよぉ」
寿町の社長はそう言ってガハガハ笑いながら、麦茶を飲み干した。
寿町の社長の言葉が衝撃的すぎて。
俺は店を少し早く閉めて、夜の公園に向かいフラフラ歩き出した。
この公園、翠と出会った公園........。
こんな風に俺がフラフラ公園を歩いてたら、ベンチに思い詰めた表情で座る翠を見つけて........。
その表情があまりにも綺麗で........。
俺は、翠をスカウトしたんだ。
今、気付いたんだけど。
俺はその時からすでに、翠に惚れちゃってたかもしれない。
ふと、ベンチに目をやると.........。
なつかしい、恥ずかしそうな笑顔がそこにあって.......。
そして、俺は思わず、呟いたんだ。
「翠........」
「オーナー.......龍一、久しぶり」
その笑顔とその声に、俺は一気に気持ちが昂ぶってしまった。
「おまえ.....今までどこにいたんだよ!!
心配してたのに!!.......なんだよ、その格好!!ネクタイなんかしめて、まるで.......まるで.......?........翠、おまえ.......」
綺麗な顔はそのままなのに。
サラサラな髪はキチンと整えられていて、ネクタイにワイシャツなんて格好をして........。
翠、おまえ.......。
翠は俺に近づくと、俺の頰にそっと手を添えて、にっこり笑ったんだ。
「察しがいいね、龍一は。
そっちの世界でいう〝マッポ〟なんだよ、オレは」
その瞬間から、それ以降の記憶が俺にはない。
真っ暗になって、翠の笑顔が瞼に焼き付いて。
かわいい翠が.......かわいい翠が、警察官だなんて.......。
一体、どういうことなんだ.......翠。
気がついたら、俺はベッドに寝ていた。
体を起こそうとすると体が痛くて、腕が動かせなくて........。
腕の方に目をやると、俺の腕はベッドヘッドに固定されていたんだ、手錠で。
ヤバイ......これは、ヤバイぞ。
このパターンは海に沈められるか、臓器を売り飛ばされるか。
俺は腕を振り回して、必死にそこから逃れようとしたんだ。
「あ、起きた?」
このしばらくの間、俺が聴きたくて聴きたくて、たまらなかった、この優しげな声。
「翠......!....」
そうだ、こいつ......!
マッポだったんだ.......。
そう思うと海に沈められることも、臓器を売り飛ばされることも、ない。
.........俺は、ちょっとだけ、安心してしまった。
そんな俺をみて、クールに笑みを浮かべた翠は、ネクタイを慣れた手つきではずすと、ベッドから動けない俺に馬乗りになる。
儚い、犯されるたびに泣きそうな顔をしていい声で〝鳴く〟翠じゃなくて、挑発的で俺を支配するように見る翠は、同じ顔の同じ人なはずなのに、全く別人に見えて........。
混乱してくるんだ。
「まだ、その名前で呼ぶ?オレのこと」
「..........翠....」
「オレの名前、知ってるでしょ?ほら、言ってみてよ」
そう言って翠は身動きがとれない俺のズボンに手を入れて、ゆっくりした手つきでしごきだす。
「.......あっ.....翠.....やめっ」
「違うでしょ?早く言わないと、本気だすよ?
オレ」
しごいていた手が速くなり、翠の舌がその先を絡めとるように愛撫するから.......。
一気に、フラストレーションが上昇する。
我慢しなきゃ.......でも、我慢できない。
「み....翠川.....隼介.......」
翠.......翠川隼介は、一瞬顔をあげてにっこり笑った。
「よくできました、龍一。ご褒美をあげるね」
上目遣いで俺を見て........俺が好きだった翠は、その口の中奥深くに咥え込んだんだ。
✴︎
オレ、かなりうまくなったな、フェラ。
目の前の龍一が手錠で身動きがとれないことをいいことに、龍一に対して好き放題していて........。
「あっ!.......」
龍一が身体をビクつかせて呻き声を上げたと同時に、オレの口の中は龍一が出したモノでいっぱいになって、それを、オレは飲み干すんだ。
潜入捜査、とかさ........。
........オレ、まず、無理なんじゃね?
ガタイもいい方じゃないし、売り子を魅了するような男前でもない。
オレみたいな中途半端なヤツが潜入捜査すること自体、間違ってるよ。
「ちょんの間の摘発のためだ。隼介、潜入捜査してこい」
交番勤務から生活安全課に配属になって、希望を抱いてキラキラしていたオレは、楢原先輩にそう言われて、ちょんの間の近くにきてみたはいいものの。
昔からある売春宿のガードがゆるいわけあるはずもなく。
まず一見さんはお断りで、常連さんづれじゃないと入ることすら叶わない。
八方塞がり........って、いうんだろうな、こういうの。
「ねぇ、君。うちで働かない」
切羽詰まった、どうしようもない顔をしていたオレが、ちょんの間のオーナーに声を掛けられるなんて。
そして、こんな形で潜入捜査が成功するなんて。
思いもよらなかったんだ。
「やだ.....やだぁ.....,」
我ながら情けない声で泣いて、オーナーに抱かれたと思う。
潜入捜査とは言え、素性をバレてはいけないとはいえ。
なんでこんな目にあわなきゃいけないんだろう、って。
なんで、警察官なのに男に抱かれてるんだろう、って。
悲しく、なってしまった。
オーナーが身体中を舐めたり、オレの中に突っ込んで動きまくったりするたびに、ひたすら泣いて耐えまくったんだ。
ただ、一つだけ言えることは。
耐えまくってる間に、だんだん気持ちよくなってしまって........。
オーナー....龍一がオレをまるで恋人みたいに扱って抱くから........。
一瞬、潜入捜査を忘れて、龍一にヤラれてることが嬉しくて、そんな龍一を好きになってしまうほど楽しくて。
龍一にハマってしまったんだ。
そしてオレは、ちょんの間の売り子として、色んな客に抱かれて、色んな客に突っ込まれて、潜入捜査を始めた。
寿町の社長みたいに優しく抱く客もいれば、縛り上げて強引に抱く客もいて、仕方がないとはいえ、毎日気持ちがすり減って、モチベーションが下がってるところに、龍一が毎晩、オレを優しく抱く。
それが、オレにとって。
いつの間にか、唯一の癒しになっていたんだ。
最初はちゃんと、潜入捜査の仕事をちゃんとしていたよ?
どういう客が来て、どう仕組みで売り子に体を売らせるかとか、先輩に逐一報告して........。
でも......。
売り子をしているなんて、口が裂けても言えなかった。
それだけは、警察官としてのプライドが許せなかったんだ。
そもそも、楢原先輩がいいださなきゃ.......。
オレはこんな目にあうことはなかったのに.....って、思うと変に恨みが湧いてしまって。
オレは、だんだん、楢原先輩に嘘の情報を入れるようになってしまった。
先輩より、組織より。
売り子の仲間や、常連さん......そして、龍一を守りたくなったんだ、オレは。
痺れを切らした、楢原先輩は旅舎検と称してちょんの間に踏み込むって言い出した時、もう潮時だと直感した。
だから、龍一に情報を漏らしたんだ。
オレの、唯一の、先輩への復讐だ。
何も言わずにちょんの間を去って、元の警察官としての仕事に戻って、何ごともなかったかのようにすごしていたのに.......。
でも、さ。
体は......気持ちは.......龍一を忘れられなかったんだ。
今までの人生、あんなに「好き」って言われたのも初めてで、あんなに心から愛してもらったのも初めてだったから........。
龍一に、龍一にどうしても会いたくて。
独り占めをしたくて。
警察官なのに、龍一を拉致したんだ。
「翠......隼介......やめ....あっ、あぁ.....」
オレは自由の効かない龍一の上に跨って、そして、オレの中に入れて激しく動く。
こんなに龍一が感じているの、初めて見た。
だから、余計、嬉しくなる。
オレ、変わったなぁ。
前は、こんなんじゃなかったのに。
特定の人を独占したいとか、オレだけを愛してもらいたいとか。
思ったことなんて、なかったのに。
上体を倒して、オレは龍一の胸に舌を這わす。
「隼介.......」
「龍一.......好き.......、龍一は、オレが好き?」
龍一はオレが上下に動くたびに狂おしく感じて小さく言ったんだ。
「隼介、愛してる.......」
「..........じゃあ、オレだけのものになって、龍一。龍一しか、いらない。龍一だけで......いいんだ、オレは」
ともだちにシェアしよう!