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desire 2
チャリと手錠の小さな鍵の金属音が、やたらと耳につく。
僕は咄嗟に中に突っ込まれている、バイブに手を伸ばした。
「おっと。まだ外すなよ?」
「いや……ぬいて……」
後ろから僕を強く抱きしめた澤村が、途切れることなく震えるバイブをより僕の奥に入れ込むから、僕はたまらず体を反らしてしまう。
「あぁっ!!」
「美波のおかげで、一課に呼んでもらえることになったよ、俺。ありがとうな、美波」
「……やぁ………やめ…」
「安心しろ。今おまえは精神を病んで療養休暇になってるから。心配しなくてもいい。しかし、おまえが天涯孤独でよかったよ。おまえがこんな目に遭っていても、誰も気にもしない。………あの、ボンクラな松本くらいかなぁ………『美波によろしく』ってよ」
バイブを抜き差しされて。
僕のかろうじて残っていた体力はすんなり奪われて、澤村の動きに僕は声を上げて女の子みたいによがった。
「手錠のかわりにいいのをやるよ、美波」
全身が火照ってどうしようもない中、首筋にヒヤッと冷たい感触が伝わって、次にジャラジャラと音を立てた重りが僕の首をベッドに押し戻す。
………何、これ?……ドッグカラー……?
ちょっ……いやだ………だれか!!助けて!!
「やだ……いやだ………」
「暴れんなよ……!!………美波っ!!………夢だったんだよ、キレイで賢いペットを飼うのってさ。……まさに理想だよ、初めて会った時から、こうなることを想像していた。俺のモノにしたいって、欲望をひた隠して」
そのままうつ伏せに押し倒されて、内側を刺激するバイブの感覚がなくなった瞬間、間髪入れずに熱を帯びた澤村のが、僕の内側奥深くまで満たした。
「ぁ……んぁ………やぁ」
もう、何回てヤられてる、澤村に。
その度に僕じゃないみたいにおかしくなって、よがって、イキまくって………。
狂う。
「美波。雫と俺と………どっちが、好きなんだ?」
「………え?……んっ……ぁ」
「どっちが、好きなんだ?」
なんで、今……?
信頼していたヤツにこれでもかってくらいヤられて、狂いそうになるくらいこの身を弄ばれているのに………?
自分の意思が、見えないのに。
自分の体が、自分のじゃないみたいなのに。
………苦しい。
僕が求めてるのは、好きとかそういうんじゃないんだよ。
たまらず涙が出てしまって、その瞬間、僕の中でブツッと何かが音を立てた。
「……さわ…むら………さわむらが……好き」
つい、口をついた答え。
自由になれるはずもないのに、そう答えざるを得なかったんだ。
僕の答えに気を良くしたのか。
澤村は、僕のよく知っている笑顔で僕を見つめると、より一層、僕を抱き潰す勢いで激しく動き出した。
「……波、美波。大丈夫?」
心の中が疼くようなドキッとする声に、僕は目を開けた。
どれくらい寝ていたんだろうか。
その声の主を、久しぶりに見た気がする。
「零もまた………こんなになるまで、美波を抱くことないのに………どこか、痛いトコない?」
あったかい濡れタオルで僕の体を優しく拭いてくれる雫に、僕は無言で首を横に振った。
「痛いトコがあったらちゃんと教えてね、美波」
澤村とは、違う。
雫のその手つきや表情は、僕が惹かれたその時のままの雫で全く変わらない。
その証拠に「ちゃんと教えてね」と言う割には、僕が何も言わなくてもちゃんと意を汲んでくれるんだ。
「何か食べたいのある?髪もだいぶ伸びたね、切ってあげようか?美波、何がしたいか教えて」
「………ここから、出して」
久しぶりに言葉を口から発して、想像以上にその自分の声がカスカスで弱々しいのに驚いた。
「ごめん、美波。それはできないんだよ」
そのキレイな瞳を潤ませるように揺らして、雫は僕の頭を撫でて言う。
「俺のそばにいるのは、イヤ?ずっと俺が守ってあげるから、このままじゃダメ?」
「………雫が、いい」
「美波………」
「雫だけで、いい………雫だけで」
それだけ言うと、涙が出てきた。
雫のその行動がすべて塗り固められた嘘のようで、雫が心配そうに見つめるその表情が演技のようで。
………信じられない。
初めて心を揺さぶられるくらい愛した人を、信じることができない………。
こんなにも、苦しい。
「美波……。俺を信じていて。もう少ししたら、美波をここから出してあげる。………一緒に、逃げよう。美波」
僕の頬を両手で覆って、貪るようにキスをする雫に僕は体を委ねた。
雫の手が僕の全身を滑るように愛撫して、僕の中にその指が入る。
そう……僕を欲して………。
むやみやたらに開発された僕の体に怒りを覚えて………。
そして、澤村に嫉妬して………雫。
澤村に抱かれてる時は、澤村の激しいセックスにこの身を委ねて、「好き」と澤村に囁く。
雫と時間を共有している時は、雫の甘くて優しいセックスに感じて、「愛してる」と雫に甘える。
そして、2人で僕を犯す時は、極力、苦しそうに………辛そうに………。
僕は、タネをまいたんだ。
僕を独り占めしたいという、澤村と雫の心の中に欲望のタネを、まいたんだ。
………互いに、疑念を持つように。
………互いに、嫉妬をするように。
そういう風にしむけて、しばらくすると2人はうちに秘めた互いの不満を僕にぶちまけるようになった。
「自分勝手」だとか「いうことをきかない」とか、最近じゃそれがエスカレートして「殺したい」とか、穏やかじゃないことを2人して口にする。
僕はその度に「僕を助けて」「1人にしないで」って言って、2人の気持ちを煽動して………コントロールして。
とうとう………僕の欲望は、叶ってしまった。
あれだけニコイチだった2人が歪みあって、憎しみあって。
僕と肌を重ねる時間にバッティングした時に、それは起こった。
コンクリートの打ちっぱなしの無機質極まりない部屋の床に、2人は横たわっている。
しばらく見ていたら、2人の体から赤い液体が漏れ出して、光沢のある赤い絨毯のように広がっていく。
…………こうなることを、望んでいたんだ。
喉から手が出るほどに、僕はその欲望を渇望していた。
僕は自由を噛み締めた体をゆっくりベッドから起こすと、部屋の片隅にあったロープを握りしめる。
2人を全裸にして、2人が今まで殺したヤツにやったように縛り上げた。
2人の服は僕が縛りつけられていたシーツにくるんで、そのまま………外に出たら燃やそう。
ロープを2人が着ていた服で拭って僕の痕跡を消して、僕はシーツを抱えると僕はその部屋を後にした。
いつの間にか、僕の心の中には2人に対する憎しみが増幅していたんだ。
だから、いつか………。
2人をこの世から葬り去ってやろうと思っていた。
縛られて動けない間、バイブを突っ込まれて陵辱されている間、2人のありとあらゆる絶命方法を想像して、おかしくなりそうな心の状態を保っていんだよ、僕は………ずっと。
僕は、カバンの奥底にしまい込んでいたプライベートのスマホを取り出した。
かろうじて、電源がまだ残ってる。
僕はスマホを操作して、通話ボタンを押した。
『もしもし。松本です』
「あ、松本補佐。お久しぶりです。駒高です」
『おっ!元気か?駒高!!』
「はい、おかげさまで。ようやく外に出ることができました。………あの、それで………久しぶりに澤村に会いに行ったら………澤村と〝desire〟の店長が………その、殺されていて………そっくりなんです。あの、連続殺人の時の遺体と………そっくりなんです。早く着てもらえませんか?松本補佐」
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