6 / 14

desire 2

チャリと手錠の小さな鍵の金属音が、やたらと耳につく。 僕は咄嗟に中に突っ込まれている、バイブに手を伸ばした。 「おっと。まだ外すなよ?」 「いや……ぬいて……」 後ろから僕を強く抱きしめた澤村が、途切れることなく震えるバイブをより僕の奥に入れ込むから、僕はたまらず体を反らしてしまう。 「あぁっ!!」 「美波のおかげで、一課に呼んでもらえることになったよ、俺。ありがとうな、美波」 「……やぁ………やめ…」 「安心しろ。今おまえは精神を病んで療養休暇になってるから。心配しなくてもいい。しかし、おまえが天涯孤独でよかったよ。おまえがこんな目に遭っていても、誰も気にもしない。………あの、ボンクラな松本くらいかなぁ………『美波によろしく』ってよ」 バイブを抜き差しされて。 僕のかろうじて残っていた体力はすんなり奪われて、澤村の動きに僕は声を上げて女の子みたいによがった。 「手錠のかわりにいいのをやるよ、美波」 全身が火照ってどうしようもない中、首筋にヒヤッと冷たい感触が伝わって、次にジャラジャラと音を立てた重りが僕の首をベッドに押し戻す。 ………何、これ?……ドッグカラー……? ちょっ……いやだ………だれか!!助けて!! 「やだ……いやだ………」 「暴れんなよ……!!………美波っ!!………夢だったんだよ、キレイで賢いペットを飼うのってさ。……まさに理想だよ、初めて会った時から、こうなることを想像していた。俺のモノにしたいって、欲望をひた隠して」 そのままうつ伏せに押し倒されて、内側を刺激するバイブの感覚がなくなった瞬間、間髪入れずに熱を帯びた澤村のが、僕の内側奥深くまで満たした。 「ぁ……んぁ………やぁ」 もう、何回てヤられてる、澤村に。 その度に僕じゃないみたいにおかしくなって、よがって、イキまくって………。 狂う。 「美波。雫と俺と………どっちが、好きなんだ?」 「………え?……んっ……ぁ」 「どっちが、好きなんだ?」 なんで、今……? 信頼していたヤツにこれでもかってくらいヤられて、狂いそうになるくらいこの身を弄ばれているのに………? 自分の意思が、見えないのに。 自分の体が、自分のじゃないみたいなのに。 ………苦しい。 僕が求めてるのは、好きとかそういうんじゃないんだよ。 たまらず涙が出てしまって、その瞬間、僕の中でブツッと何かが音を立てた。 「……さわ…むら………さわむらが……好き」 つい、口をついた答え。 自由になれるはずもないのに、そう答えざるを得なかったんだ。 僕の答えに気を良くしたのか。 澤村は、僕のよく知っている笑顔で僕を見つめると、より一層、僕を抱き潰す勢いで激しく動き出した。 「……波、美波。大丈夫?」 心の中が疼くようなドキッとする声に、僕は目を開けた。 どれくらい寝ていたんだろうか。 その声の主を、久しぶりに見た気がする。 「零もまた………こんなになるまで、美波を抱くことないのに………どこか、痛いトコない?」 あったかい濡れタオルで僕の体を優しく拭いてくれる雫に、僕は無言で首を横に振った。 「痛いトコがあったらちゃんと教えてね、美波」 澤村とは、違う。 雫のその手つきや表情は、僕が惹かれたその時のままの雫で全く変わらない。 その証拠に「ちゃんと教えてね」と言う割には、僕が何も言わなくてもちゃんと意を汲んでくれるんだ。 「何か食べたいのある?髪もだいぶ伸びたね、切ってあげようか?美波、何がしたいか教えて」 「………ここから、出して」 久しぶりに言葉を口から発して、想像以上にその自分の声がカスカスで弱々しいのに驚いた。 「ごめん、美波。それはできないんだよ」 そのキレイな瞳を潤ませるように揺らして、雫は僕の頭を撫でて言う。 「俺のそばにいるのは、イヤ?ずっと俺が守ってあげるから、このままじゃダメ?」 「………雫が、いい」 「美波………」 「雫だけで、いい………雫だけで」 それだけ言うと、涙が出てきた。 雫のその行動がすべて塗り固められた嘘のようで、雫が心配そうに見つめるその表情が演技のようで。 ………信じられない。 初めて心を揺さぶられるくらい愛した人を、信じることができない………。 こんなにも、苦しい。 「美波……。俺を信じていて。もう少ししたら、美波をここから出してあげる。………一緒に、逃げよう。美波」 僕の頬を両手で覆って、貪るようにキスをする雫に僕は体を委ねた。 雫の手が僕の全身を滑るように愛撫して、僕の中にその指が入る。 そう……僕を欲して………。 むやみやたらに開発された僕の体に怒りを覚えて………。 そして、澤村に嫉妬して………雫。 澤村に抱かれてる時は、澤村の激しいセックスにこの身を委ねて、「好き」と澤村に囁く。 雫と時間を共有している時は、雫の甘くて優しいセックスに感じて、「愛してる」と雫に甘える。 そして、2人で僕を犯す時は、極力、苦しそうに………辛そうに………。 僕は、タネをまいたんだ。 僕を独り占めしたいという、澤村と雫の心の中に欲望のタネを、まいたんだ。 ………互いに、疑念を持つように。 ………互いに、嫉妬をするように。 そういう風にしむけて、しばらくすると2人はうちに秘めた互いの不満を僕にぶちまけるようになった。 「自分勝手」だとか「いうことをきかない」とか、最近じゃそれがエスカレートして「殺したい」とか、穏やかじゃないことを2人して口にする。 僕はその度に「僕を助けて」「1人にしないで」って言って、2人の気持ちを煽動して………コントロールして。 とうとう………僕の欲望は、叶ってしまった。 あれだけニコイチだった2人が歪みあって、憎しみあって。 僕と肌を重ねる時間にバッティングした時に、それは起こった。 コンクリートの打ちっぱなしの無機質極まりない部屋の床に、2人は横たわっている。 しばらく見ていたら、2人の体から赤い液体が漏れ出して、光沢のある赤い絨毯のように広がっていく。 …………こうなることを、望んでいたんだ。 喉から手が出るほどに、僕はその欲望を渇望していた。 僕は自由を噛み締めた体をゆっくりベッドから起こすと、部屋の片隅にあったロープを握りしめる。 2人を全裸にして、2人が今まで殺したヤツにやったように縛り上げた。 2人の服は僕が縛りつけられていたシーツにくるんで、そのまま………外に出たら燃やそう。 ロープを2人が着ていた服で拭って僕の痕跡を消して、僕はシーツを抱えると僕はその部屋を後にした。 いつの間にか、僕の心の中には2人に対する憎しみが増幅していたんだ。 だから、いつか………。 2人をこの世から葬り去ってやろうと思っていた。 縛られて動けない間、バイブを突っ込まれて陵辱されている間、2人のありとあらゆる絶命方法を想像して、おかしくなりそうな心の状態を保っていんだよ、僕は………ずっと。 僕は、カバンの奥底にしまい込んでいたプライベートのスマホを取り出した。 かろうじて、電源がまだ残ってる。 僕はスマホを操作して、通話ボタンを押した。 『もしもし。松本です』 「あ、松本補佐。お久しぶりです。駒高です」 『おっ!元気か?駒高!!』 「はい、おかげさまで。ようやく外に出ることができました。………あの、それで………久しぶりに澤村に会いに行ったら………澤村と〝desire〟の店長が………その、殺されていて………そっくりなんです。あの、連続殺人の時の遺体と………そっくりなんです。早く着てもらえませんか?松本補佐」

ともだちにシェアしよう!