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sunrise 4

✴︎ .......おどろいた。 今日、僕は当直で。 今日は金曜日だし、柔剣道大会の慰労会もあって、他の教官達もすぐ帰ったし、学校生も残っていなくて。 昴と当直が一緒という不安を除けば、イージーモードな当直だと思ってたんだ。 駐車場に美里と僕の車だけが残ってたから、てっきり車を置いて慰労会にでもいったんだろうな、って思ってたんだけど.......。 学校内を巡回中。 模擬棟.....職務質問とか訓練をするための小さな建物の中で、人影が見えた。 近づくと......美里と佐川海斗で。 ......その、えと、真っ最中で.....。 それにもかなり驚いたけど、美里が.....月明かりに照らされた美里がいつもと違って。 あんなに感情的な顔をするんだ.....。 いつもの優しい笑顔からとても想像がつかないくらい......情熱的で、神秘的で。 対する佐川も官能的な顔をしていて......。 声が出そうになって、思わず口を手で押さえた。 ゆっくり、そっと、後ずさる。 「!!」 背中に何かがぶつかって、慌てて振り返ると....。 「菊水教官、どうしたんですか?」 いつの間にか昴が僕の背後に立っていて、僕は昴にぶつかっていた。 そして、僕の先にある模擬棟に視線を送っている。 僕は昴の口を左手で押さえると、右腕をその広いの肩に回して。 僕より大きな昴を抱えるようにして、その場から足早に立ち去ったんだ。 「んーっ!!んーっ!!」 あまりも衝撃的すぎたんだろうな.....。 昴の口を押さえていたことをすっかり忘れてしまっていて。 当直室に着くまでずっと昴の口を塞いでいたから、その苦しそうな声で、ハッとした。 慌ててその手を離す。 「あ、岡田巡査......ゴメン」 「ハァ、ハァ、ハァ.....くるし......どうしたんですか?菊水教官......なんかあったんですか?」 「いや.....なんでも」 「......ウソ」 「え....?」 「菊水教官は、顔にでるから.....最近、俺でもわかるようになってきました」 「......そう、でも.....言わないよ」 「何を見たかも?」 「......岡田巡査?」 「俺があの位置から見えてないワケないじゃないですか」 「......でも、言わない」 「......どうしてですか?菊水教官」 「言ってどうなる?岡田巡査は何を見たんだ?あんな暗闇で、何を見たんだ?」 「............」 ......つい、詰問してしまった。 昴は、何も悪くないのに。 あの時ー。 美里と佐川を見た時ー。 一瞬、僕と昴の姿を重ねてしまったんだ。 僕は罪悪感にさいなまれているのに。 あの2人は、罪悪感なんかまったく感じさせなくて.....月明かりに照らされた2人が、あまりにもキレイで......素直に見えて。 驚いたんだけど、その裏に〝うらやましい〟って感情が張り付いてて。 だから、目が釘付けになってしまったんだ。 きっと、僕だけなんだ。 色んなことに対して、シャインにも、昴にも.....後ろめたい。 あんな風にストレートに、感情をぶつけられない。 僕自身が不安定すぎて。 シャインにも、昴にも、中途半端なんだ。 「.....なんで、そんな顔。.....そんな、辛そうな顔すんだよ」 昴が眉間にしわを寄せて、僕を見る。 「.....関係ない」 「関係ないワケないだろ!.....なんで、俺を見て笑ってくれないんだよ.....なんで、まだ、俺をちゃんと見てくれないんだよ!.....メグムにそんな顔、させたくないんだよ、俺は!」 また、だ。 また、昴を泣かせてしまった。 衝動......衝動的に。 僕は、昴にキスをした。 今、一番に、自分の気持ちにストレートに動いた結果。 僕は、昴にキスをしてしまったんだ。 ✴︎ ストレートに俺を見るその黒い瞳。 そして、ストレートに俺にキスをする。 迷いがない.....真っ直ぐな思いが俺に伝わってきた。 今は、俺だけを見てくれている。 俺の後ろに、〝シャイン〟を見てる気はしない。 やっと、やっと.....俺を、俺として見てくれた。 「.....メグム」 「嘘を.....つきたくない」 「........嘘?」 「シャインのことも好きだけど、昴のことも好きなんだ。 どっちかなんて、選べなくなってしまった。 だからって......昴への気持ちをごまかして、なかったことにするのはイヤなんだ」 メグムの真っ直ぐな瞳に引き込まれそうだ....。 その頰に触れたいけど、その瞳に阻まれて手が出せない。 その唇にキスをしたいけど、体が動かない。 その瞳が、その眼差しが、俺を射抜くように見るから......。 まるで、俺はけん銃の的になってしまったかのように.....。 声も出せない......動けない。 その瞳に、俺は射抜かれる。 「......僕は、昴が好きだ。ズルいかもしれないけど、もう、自分の気持ちはごまかさない。 こんな僕をまだ好きでいるか、嫌いになるか.....昴次第だよ」 なんだよ.....なんなんだよ。 なんで、俺に答えを委ねるんだ。 真っ直ぐに、ストレートに、俺に思いをぶつけてきたくせに。 肝心なところは、俺任せなんて。 ......メグムは、どっちに転んでも自分だけ傷つけばいいって、思ってるんだ。 俺が「好き」なら、結局、メグムは罪悪感で傷つく。 俺が「嫌い」なら、メグムはフラれて傷つく。 ......ズルい、本当に、メグムはズルい。 そんなことして、俺が平気なワケないじゃないか! 苦しむメグムを、見たい? そんなの見たくないに決まってる! メグムが真っ直ぐな瞳を閉じた。 瞳を閉じたから、やっと俺は動けるようになって、その細い体を抱きしめる。 メグムは、ジッと目を閉じて俺に体を委ねていた。 「.....メグムは.....ズルい」 「昴が、決めるんだ」 「嫌いに....嫌いに......なれるワケない」 「......それが、昴の答え?」 メグムがゆっくり目を開けて言った。 傷つくことも恐れない、真っ直ぐに俺を見る瞳。 メグムの中には、シャインと俺がいて。 どっちも同じぐらい愛してて。 それは、許されないことだってわかってて。 でも、自分にも、俺にも、シャインにも。 ......メグムは、正直でいたいんだ。 俺は、たまらず唇を重ねた。 .....口の中にメグムの甘い吐息が広がって、そして、積極的に舌を絡ませてくる。 細い腕が俺のクビに絡まったかと思うと、片手は俺の髪を掴んで、もう片方はゆっくり俺の背中をなぞって、刺激してくる。 .......ダメだ、俺が先に乱れてしまいそうだ...!! そして、俺は。 メグムのその制服のボタンに、手をかけた。 ✴︎ 海斗が「僕を信じて」って.....。 だから、心の底から海斗が欲しくて、海斗を信じたくて。 海斗が気を失うくらい、激しく、キツくしてしまったから。 海斗を僕の車に乗せて、僕は模擬棟の鍵を返しにそっと建物の中に入った。 執務室にある鍵箱に鍵を入れる。 執務室に行くには、当直室の前を通らないといけないけど、この時間なら、当直室には岡田しかいないはずだ。 「ん......ん、あ......あぁ」 ......乱れた声......メグムの声? ドキっとして、当直室をのぞいてしまった。 メグムが背中を壁に押し付けられて、岡田がその太ももを持ち上げて.......。 激しく....深く....繋がってる。 .....いつも、にこにこしてて、明るくて、穏やかで......メグムのこんなに乱れた姿を初めて見た。 ......驚いたと同時に、その色っぽいメグムの表情に思わず見惚れてしまう。 その狂おしさとか、危うげなとことか。 ......息をのむ。 その時ー。 僕は、メグムと目があってしまった。 大きく目を見開くメグム.....次の瞬間ー。 感じたままの表情に笑みを浮かべて、僕を見た。 その表情を見て、僕は、愕然としたんだ。 ........見られた。 ........海斗とのこと......。 メグムに見られてたんだ.....。 .......僕は、後ずさる。 頭が冷たくなって、思わず手で口を押さえた。 メグムは、口が固い。 きっと、僕らのことは胸の中にそっとしまうはずだ。 僕もメグムのことを胸の中にしまう。 誰にも言わない......絶対に。 でも、メグムのあの表情が忘れられず.....脳裏に焼き付いて離れない。 鍵箱に模擬棟の鍵をしまうと、メグムの乱れた声を横に、急いで車に戻った。 ......海斗........。 誰にも言わない。 言わない、けど。 今、僕は、海斗の声が聞きたかった。 そして、優しく言ってもらいたかっんだ。 「美里さん、大丈夫。大好きだよ。心配しないで」 僕は車の中で眠る海斗の体温を感じるように....その細い身体を抱きしめたんだ。 ✴︎ ここ最近のキツそうな顔と、うってかわって。 メグムは晴れ晴れとした顔をして、飴玉を口に放り込む。 なんかいいことあったんだな、すぐ顔にでる。 「最近調子良さそうだな、メグム」 俺の言葉にメグムはにこやかに笑う。 「そう?いつもとかわらないよ?」 「そっか、ま、お前が元気そうなら、それでいいよ」 「ありがとう、半田」 一方、1人暗いヤツがいる。 いつも穏やかな笑顔で、感情の起伏が見えない神園が、明らかに暗い。 笑顔はそのまま、そのままなんだけど。 心ここに在らず、というか。 声のトーンが、微妙に低いというか。 今の神園に職務質問されたら、言い逃れることができる自信がある。 「どうした、神園。元気ないな」 「そう?いつもとかわらないよ?」 メグムと全く同じ回答でも、明るさや表情が雲泥の差で.....余計なお世話かもしれないけど、根掘り葉掘り勘ぐってしまいたくなる。 「なんか、悩みとかあったら言えよ、神園」 「大丈夫だよ。.....そんなに僕、元気ない?」 「まぁ、そう見えるよ?」 「そっか。なら、心配かけてごめん。でも、本当になんともないから。ありがとう、半田」 そう言って、神園はいつもの笑顔を見せる。 同じ笑顔でもさ。 メグムの晴れ晴れとした笑顔と。 神園のどことなく影のある笑顔と。 二つの笑顔の間で、俺はなんだか、居心地が悪かったんだ。 「刑事事件において、真犯人にか知り得ない事実を取り調べの最中に自白することを「秘密の暴露」というんだ。 裏付ける捜査の結果において、事実に間違いない確証を得られれば、たとえ物的証拠や目撃証言が無くても「秘密の暴露」のある自白は非常に有力な証拠となる。 ただ、秘密の暴露は迫真性や具体性によって判断するのではなく、事件との関連性において自白となるかが問われるんだ。 お前たちが将来、刑事を希望して被疑者を取り調べをするときがくるとする。 その場合、お前たちが、故意に自白を誘導したりすると冤罪につながったり、せっかく有効な「秘密の暴露」が有効でなくなる可能性がでてくる。 だから、取り調べはテレビドラマみたいな派手なことは絶対になくて、地味で駆け引きが必要な、極めて重要な捜査の一つなんだ」 まぁ、こんな話は、眠たくなるよな。 俺だって、学校生のころは刑事訴訟法なんてさ。 よくわからない言葉の羅列ばっかで、意味わかんなかったよ、本当。 実際、どの法律のどの条文があてはまるかなんて、経験しなきゃピンとこないもんな。 「半田教官、質問していいですか?」 木村倫太郎が手をあげた。 柔剣道大会以降、木村は岡田と同じくらい積極的になった。 まぁ、いいことだけどさ。 「いいよ、木村巡査。何?」 「僕たちがもし秘密を知ってしまって、それを漏らした場合、刑法第134条の秘密漏示罪になるんですか?」 「おしい!....近いけどまず法律が違うな。 木村巡査が言った秘密漏示罪は、医師や弁護士などに適用される条文だ。 俺たちがもし知り得た秘密を漏らした場合、地方公務員法第34条第1項の〝職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする〟の条文が適用されるんだよ。 でも、目の付け所がいいよ、木村巡査。 よく勉強してるな」 木村が少し恥ずかしそうに笑った。 その時、岡田が何かを考えるかのように右上を見て、と同時に、佐川が目を少し大きく見開いた。 地方公務員法なんて地味な法律に反応するなんて.....なんか、あったのか?コイツらは。 まぁいい。 どんな理由があるにせよ、授業を真面目に聞いてくれる数少ない学校生がいて。 俺は、本当に嬉しい。 涙がちょちょぎれるくらい、嬉しい。 ✴︎ 「稔はどの部門の警察官になる?」 いつもの脱衣所で。 しかも一回ヤッた後に、俺はおもむろに聞いた。 俺はまだ漠然としてたけど、刑事もカッコいいなって思ってたし。 最近、少年やサイバーの生活安全のほうもいいなって思うようになって。 今日の授業をなんとなく聞いてたらさ、倫太郎は刑事志望だって丸わかりだったし。 昴はなんでもできるから、なんでも向いてそうだし。 だから。 稔が何を希望してるのか、気になってしょうがなかった。 「うーん.....機動隊......とか?」 機動隊......防具をつけて盾を持って。 なんかあったら最前線にいる。 1番体力勝負なところをまた.....。 でも、なんか。 あってるかも。 .....ここにきて。 稔と進む道が別れた。 ガキの頃からずっと一緒でさ。 最初は海保に行くって言ってた稔が警察官になって、また一緒になって。 今は、心も体も通じていて......。 だから、なんとなく寂しくなってしまったんだ。 「そっか、稔にあってるかも」 「......なんだよ、弘海。なんでそんな顔すんだよ」 「いや....なんでもないよ」 「言いたいことがあるんならハッキリ言えよ。お前らしくないな」 「志望が、違ったらさ。 もう、多分、会う機会も少なくなるよなって.....」 「なんだ、そんなことか」 「なんだって、なんだよ!人は真剣に悩んでるのに!」 「簡単じゃないか。 弘海も機動隊、志望すればいいだけじゃん」 「はぁ!?」 「簡単だろ?」 「何言ってんだよ! 柔剣道大会で、俺は全敗だったんだぞ! ....お前は全勝賞までとっちゃってさ。 稔にとっては簡単なことかもしんないけど、俺が機動隊に行くなんて考えたら、今の100倍は努力しなきゃ.....努力しても、絶対、無理だ」 「弘海...泣くなよ.....」 稔に指摘されるまで気付かなかった。 いつの間にか泣いてたんだ、俺。 俺はいつも、稔のことで泣く。 稔と離れたくなくて。 稔の言葉に傷ついて。 稔の一番となりにいたくて。 「〰︎〰︎〰︎〰︎っ!お前のせいだろ!」 「もう....どこまで手がかかるんだよ、弘海は」 俺を包み込むあったかい、手、そして、身体。 そして。 俺はいつも、稔にこうやってなぐさめられる。 「俺が無理言ったから、ゴメン。 あんまり、弘海が一緒にいたいって、いう感じだったらからさ....。 でもさ、別々にいてもお互い合わせる努力をすれば、なんとかなるんじゃないの? 離れていても、俺は弘海のそばにいる自信があるよ?」 「.......稔」 そばに.....物理的に稔のそばにいることに固執していたのは、俺なのかもしれない。 稔が、信じられなかったのかも。 .....子どもだな、俺。 何にも考えてないような稔の方が、絶対子どもだと思ってたのに。 稔の方が、達観してる。 俺は、稔にキスをした。 それが軽くで終わるハズもなく、次第に激しくなっていく。 「.....稔、俺のこと、忘れるなよ」 「いくら弘海に〝脳みそまで筋肉〟なんて言われようと、それだけは絶対にないから安心しろ」 稔が、腕に力を入れて俺を抱き寄せる.....そして、押し倒す。 俺だって忘れない。 稔の優しく響く声や体温。 こうして強引に押し倒すとこや、俺の感じるところを全て知ってるとこ。 「....ん....稔........キツくしてほしい」 そんなこと考えてたら、俺は、自分でもビックリするようなことを口走っていたんだ。 ✴︎ メグムは、どうしてあんなに明るいんだ? 僕に見られるクセに。 かといって、僕を脅すわけでもなく。 萎縮するわけでもなく。 ごくごく普通に接してくる。 そんな態度をとられたら、逆に僕はペースを乱されてしまうから。 ..........半田に勘ぐられてしまったんだ。 僕は、メグムに声をかけた。 「メグム、話があるんだけど.....ちょっといい?」 「外は暑いねー。 僕さー、左手にシャント入れてれるから、夏制服でも長袖きてなきゃなんないんだよ? やだなー。で、何?話って」 模擬棟の前で。 背中に夕日を浴びながら、メグムが穏やか表情で言う。 「この間のこと......」 「この間?」 「お前、見たんだろ?僕と佐川のこと」 「あぁ、あれ。そんなこと気にしてたの? 心配しないでよ、僕、誰にも言わないし。 それを言うなら、僕だって美里に見られちゃってるし」 「.....後ろめたく.....ないわけ? 僕にあんなとこ見られたのに.....笑っちゃってさ。 苦しくないわけ?」 メグムが驚いた顔をした。 そして.....優しく微笑んだ。 「......後ろめたくは、ない。今は。 多分さ、美里とか生きる尺が違うからだよ。それを気付かせてくれたのは、美里と佐川だけどね」 「え?」 「ずっと、罪悪感だらけだったんだよ、僕は。 でもさ、ここにいた美里と佐川が.....シンプルで.....すごくうらやましくて......。 その時気付いたんだ。 正直に、後悔しないで生きなきゃって」 「......メグム」 「僕は今、たまたま生き長らえているだけで、またいつ調子が悪くなるかわからないんだよ。 ひょっとしたら、正直な気持ちを伝えられずに一生会えなくなるかもしれない。 僕は、あの時の美里と佐川に教えてもらったんだ。 ストレートに、自分の気持ちに正直に。 だから、今は、後ろめたい気持ちなんてさらさらないよ」 メグムの言葉が魔法みたいだった。 なんか、僕の心のモヤモヤがすっと薄くなって.....目からウロコが落ちるって.....こういうの言うんだな、って思った。 メグムは、シンプルだった。 そのキッカケは、僕らだったんだ。 メグムは僕の頰を、冷たい手でさわった。 「美里。 佐川を離したり、泣かせたりするなよ。 そんな心配は、僕の杞憂だけど。 美里が心の底から大事だって思ってんなら、自信持ってよ、ね、美里」 僕は泣いてしまった。 僕は、メグムより色んなことに恵まれてるのに。 メグムを助けてあげなきゃいけない立場なのに。 なのに、大事なことをメグムに教えてもらうなんて......。 僕は.....この日のキラキラした眩しいメグムと、メグムの言葉を一生忘れないって、心に決めたんだ。 ✴︎ 「リン.....倫太郎!僕ね、白バイに乗りたい」 ......また、大輝がすごいことを言ってる。 でもこう言う、突き抜けて明るいとことか。 何でもない感じで、さりげなくフォローしてくれたりすることとかさ。 なんか最近、大輝に〝リンリン〟って呼ばれてもいいかな?って、思ってしまうんだ。 「意外とあってるかもな、山口巡査は」 .....また、大輝以上に仲村教官がすごいことを言っている。 こんな細くて、器用なようで意外と不器用な大輝が、1300ccもある白バイをおこしたり、乗りこなしたりできるんだろうか? 「白バイの特練員は、体重が軽い方が有利なんだよ。 体重が重かったら、それだけバイクにも付加がかかるからコーナーワークやスピードが微妙に変化してくる。 大輝は華奢だし技能さえしっかり習得すれば、かなり有利だと思うよ?」 「ホントですか!?でも、僕、大型自動二輪の免許持ってないんですけど....」 「最初はみんなそんなもんだよ、これから、これから」 僕は、気付いたんだ。 仲村教官は、絶対マイナスなことは言わない。 常に前に、前向きに、方向を示してくれる。 柔剣道大会で、悔しくて。 仲村教官の顔を見たらホッとして。 心の中の思いを吐き出してしまった時。 ーー そうだなぁ、ご飯をしっかり食べて体を作って、勉強をして知識を増やして、仲間を思って心を養って、一心不乱に邁進すれば、木村巡査が目指すところに近づくんじゃない? そんなにすぐなんでもできたら、面白くないじゃないか。できないから、できた時が嬉しくてさ。 だから〝もっと、上手くなりたい〟って、思うんだよ ーー って、言われてさ。 なんで、そんな簡単なことに気付かなかったんだろうって。 ふっきれたっていうか、なんていうか。 多分、入校した頃みたいに肩意地張ってたら、今ごろは、もう、辞めてたかもしれない。 仲村教官は、僕にとってなくてはならない存在になってしまったし。 なんだかんだいって僕から離れない大輝がさ。 認めたくないけど、そばにいてくれてよかったって思うようになったんだ。 ✴︎ 久々に低血糖になって、倒れてしまった。 最近、調子、よかったんだけどなぁ。 後悔しないように、正直に生きるって決めた矢先にこれだから。 肩口に刺した注射の感覚が、僕は病気なんだって呼び起こして、自覚させてきて、複雑な気分になる。 .....誰もいなくて良かった。 特に、半田とかさ、昴とかさ。 いたら大騒ぎしていたかも。 模擬棟の横にある長椅子に、横になってひたすら元に戻るのを待つ。 ちょうど建物が影を作ってくれて、風が吹いて気持ちいい。 気持ちいいんだけど。 体のこととか、シャインと昴に対する気持ちとか、頭の中でぐるぐる回りだして。 急に自信がなくなって、不安になって。 僕は、腕で顔を隠した。 しっかりしろっ! 「メグム?」 この声.......この香り......。 「......だれ?昴?」 僕はその声の方を見た。 ............うそ。 「昴って誰だよ、メグム」 懐かしい笑顔。 右目の下の泣きぼくろ。 そして、この香り........。 ........シャイン!! 僕は飛び起きた。 咄嗟に口を手で押さえた......押さえとかないと泣いてしまいそうだったから....。 あんまり急に飛び起きたから、体がついていかなくてフラつく。 「ちょっ...!!メグム、大丈夫?」 シャインがフラつく僕を支えてくれた。 「.....んで? なんで、こんなとこにいるワケ?」 「一時帰国。また、すぐ戻るけど」 「連絡くらいよこしてくれても.....」 「ビックリさせようと思って。ビックリした?」 「びっくり......した」 びっくりしたと同時に、胸が苦しくなった。 正直にストレートに生きる.....そう決めたのに。 グラつく、シャインに甘えたくなる。 神様は、また、僕を惑わす.....。 「あの〝35億〟が似合う先輩は?」 「あぁ、執務室にいるよ。会いに行く?.....僕、まだ動くのキツイから先に行っててよ」 「急がないから。メグムのそばにいるよ」 「いいって、しばらくしたら動けるようになるから」 「そばにいたいんだよ、メグムの」 「....シャイン」 「メグムの制服姿、ようやく見られた。....すごく、似合ってる」 「......恥ずかしいから、写メ送らなかったのに。いきなり現れるなんて、反則だよ」 今の今までニコニコしていたシャインが急に真顔になった。 「.....やっと、笑ってくれた」 「.....え?」 「さっきから、ずっと苦しそうな顔してたからさ」 .....なんだよ。 もう、僕の心の中は見透かされてる。 「シャイン、今日の夜、あいてる?」 「うん、大丈夫」 「話したいことがあるんだ.....大事な話」 「いいよ、後でホテルの場所連絡する」 「ありがとう........。 よし!もう、大丈夫!半田に会いに行こうか」 あれほど.....。 夢にまでみたシャインがここにいて。 愛おしいそうに僕を見て、優しく僕の体に触れるシャインがすぐそこにいて。 でも、そっくりな昴の顔もチラついて....。 .......ちゃんと言わなきゃ。 今日は、ちゃんと言わなきゃ.....2人にちゃんと。 だって、チャンスは今日限りなんだ。 2人が好きだって。 でも、一緒にはいられないって。 ✴︎ 「岡田巡査。 今日、僕に付き合ってくれないかな? 大事な話があるんだ」 メグムは、笑顔で俺に言った。 笑顔だけど、キツそうな笑顔が見ていて痛々しくなる。 「わかりました」 さっき、メグムと一緒にいた人。 遠目からだったから、あんまりはっきりとは見えなかったけど.....俺に似てた気がする。 あれがシャインなんだろうな.....。 多分、話ってそのことだ。 〝シャインのことも好きだけど、昴のことも好きなんだ。どっちかなんて、選べなくなってしまった〟 って言ってたメグムの心がグラついて。 メグムがシャインのところに行ってしまったら? 俺は、メグムを失うことに耐えられるだろうか.......? 「ごめんね、急に付き合わせて。昴にあってもらいたい人がいるんだ」 運転をしているメグムが、いつになく緊張しているのがわかった。 「シャイン....のこと?」 「あたり.....察しがいいね。 多分、昴もびっくりすると思うよ。すごく、似てるから」 メグムは車を走らせて、小高い山の上にある高級ホテルに入った。 多分、ペーペーの俺じゃ定年を迎えるまでに泊まれるかどうか.....シャインって、何者なんだよ? 「シャインって....何者?」 「.....知らない? アイドルなんだけど、海外に今いて....」 「........あーっ!!」 「声が大きいよ!昴!」 「.......スミマセン.....でも、俺、似てる?」 「僕さ、昔。シャインの側近警護をしてたんだ。 1番近くでシャインを見てた僕が〝似てる〟って言うんだから間違いないでしょ?」 「側近警護?」 「うん、シャインがある殺人事件の目撃者だったからさ.....。 シャインが警護対象者で僕がその警護対象者を守る側近警護で。 さらに言うと、その時の班長が半田教官で。 そういえば、半田も昴がシャインに似てるって言ってたよ?」 「マジ.....か......」 .....今さら、今さらなんだけどさ。 俺は、すごい人とメグムを巡って駆け引きをしなきゃいけないのかもしれない.....。 最上階の部屋に入ると、シャインが待っていた。 確かに.....びっくりするくらい.....似てる。 シャインも俺をみてビックリしていた。 「え...と、彼は昴」 メグムが硬い表情で、俺を紹介する。 「はじめまして、岡田昴です」 『.....はじめまして、シャインです。 .....この世には自分に似ている人が3人いるって言われてるけど......本当なんだね。 ビックリしたよ、昴』 「俺も。俺もビックリしてます」 メグムはそんなビックリしまくってる俺たちに近づいて「やっぱり、そっくりでしょ?」って笑って言った。 そして、下唇を軽く噛んで、何か考えてて.....。 メグムが、ツラそうな顔で口を開く。 「2人とも、ちゃんと聞いてくれないかな。 僕はまず2人に謝らなきゃな.......。 僕は......2人が大好きで、その気持ちが止まらなくて、2人を天秤にかけるようなことをして.....ごめんなさい。 本当は、本当は。 キチンとどっちかを選ばなきゃいけないんだけど.....。 僕はワガママだから、シャインも愛してるし、昴も愛してるし。 どっちかなんて選べなくて。 結局、シャインも昴も傷付けてしまってる......。 僕は2人分の愛をもらってるのに、僕からは1人分の愛しか返せてなくて。 僕はワガママで、イヤなヤツだからさ。 2人と一緒にいる資格はないって、思ったんだ.....。 それが、言いたかったんだ」 .......なんだよ、それ。 前は俺に選べって言ったクセに、結局、自分であっさり答えを出しちゃうワケ? 俺たちのためだって、怒りの矛先を全部メグムに向けるように仕向けてさ。 俺たちがメグムを嫌いになるように誘導して.....。 はい、終わり、なんて。 そんなんで......納得できるわけないだろ!! 「.....正直に生きようって.....2人を精一杯愛して生きたいんだ。 後悔はしてない。 病気のこともあるのに.......結局は僕のエゴで。 僕には2人の気持ちを縛る権利はないから。 だから.......ごめん。 僕は、どっちのそばにもいられない。 シャイン、昴......本当にごめん」 『言いたいことは、それだけ?』 シャインが静かに口を開いた。 その言葉にメグムは、小さく笑って頷く。 『昴』 「はい」 『今ので、〝はい、そうですか〟って、メグムのことを嫌いになった?メグムを諦められる?』 「いいえ」 『だよな?俺もだよ。一方的にサヨナラしようなんて言われても、好きなもんは好きだよな? 愛してることに変わりはないよな?』 「はい」 シャインは俺に向かって、笑った。 『だったらさ、そっくりな俺たちが、2人でメグムを愛し続けるっていう権利も、アリなんじゃない?』 ✴︎ 『だったらさ、そっくりな俺たちが、2人でメグムを愛し続けるっていう権利も、アリなんじゃない?』 シャインの言ってる意味がわからなかった。 〝なんて勝手なんだ〟って、僕を怒ってほしかったのに。 〝つきあってられない〟って、僕を嫌いになってほしかったのに。 それだけで十分だったのに。 これ以上、2人から愛をもらったら.....僕はきっと、バチがあたる。 なのに.....。 なんで、怒ってもくれないし、嫌いにもなってくれないんだ.......? 「アリだと思います.....シャイン」 『じゃあさ。メグムに対して俺たちは抜けがけはしない。50/50だ。そういうことでいい?昴』 「もちろん」 同じ顔の2人が同時に僕を見て、同時に笑う。 僕の手の届かないところで勝手に意気投合して、僕は2人のモノだって言ってる。 僕が必死で決めた意思とは全く正反対ことが着々と進んでしまって、頭がクラクラしてきた。 そしてー。 昴は僕の背後に回ると、肩を掴んで僕の耳たぶを噛んだ。 シャインは僕の正面に立って、腰を掴むと僕の首筋に舌を這わす。 「....あ、ちょっ.....何して....」 「だって、俺たちのだろ?メグムは」 「そう......じゃない...って!....」 『そういうことなんだって、な、昴』 「そう。だからメグム、いい子にして」 その言葉が2人の合図だったみたいに。 シャインと昴は、僕により強い刺激を与えはじめたんだ。 もう、どうにかなりそう......って、こういうことなんだ、って思った。 僕はシャインの上に後向きに座らされて、両手で胸や僕のをいじりながら、シャインは僕の中を激しく突いてくる。 「ん.......んくっ!....」 昴はそんな切羽詰まった状態の僕の両手を掴んで、僕の口の中には昴のが入ってきて、喘ぐ余裕すらないくらいかき乱してくる。 「メグム、気持ちいい.....」って昴が言うと、『メグムの中、キツイ』ってシャインが言って。 僕は、2人に弄ばれる。 そして、2人同時に僕の中でイッてしまう。 2人が僕の感じるとこを攻めてくるから。 快感が凄すぎて、思考が追いつかない。 かと思えば。 昴が僕の足を高く上げて、僕の中を深く突き上げてくる。 「んぁ.......あ」 僕の口の中にはシャインのが入ってきて、シャインは僕のをその口で愛撫する。 そして、また2人同時に僕の中でイく。 『メグム、やらしい』 「シャイン、メグムのそこ、もっと感じる」 「や........やぁ.........」 『....ほんとだ』 体がビクつくけど、抗えない。 2人に、どっぷりハマっていく......。 この2人は、息がぴったりで。 今日、初めて会ったとは思えないくらい、息ぴったりに僕を感じさせる。 シャインから刺激を受けて、昴がさらに刺激してくる。 もう.....ダメだ。 延々と2人に攻められてしまってー。 休むヒマがないくらいー。 僕は2人に激しく乱されて。 どうにかなりそうなくらい感じさせられて。 何回もイかされて。 2人の愛が........この上なく、深い........。 ✴︎ とうとうメグムが、ぐったりしてしまった。 あれだけイカされて、俺たちにぐちゃぐちゃにされて、とろけまくった顔してたらさ。 シャインがキスしても起きない。 俺が胸に吸い付いても、全く反応しない。 意識がとんでしまったんだろうなぁ。 『......メグムは、気を使いすぎ』 シャインがメグムの髪を撫でて言った。 『正直に生きるんだったら、俺たちにガンガンぶつかってきてくれたらよかったのに』 「嫌いになるように仕向けたみたいだけどさ、嫌いになれるわけないよね?シャイン」 シャインはふと目線を落とした。 『きっとさ、メグムが俺たちの前からいなくなってからのことを心配したんだよ。 俺たちがメグムを好きなままだったら、いなくなった時にきっと悲しむんじゃないかって。 それを見たくなかったんじゃないかな? 俺たちがメグムを嫌いになったら、もしメグムがいなくなっても悲しまないですむからさ。 そっと、俺たちの前から消えたかったんだろうな』 「それは、ちがう.....」 俺は思わず呟いてしまった。 悲しいよ......。 メグムがいなくなったら、悲しい.....悲しいけど。 そうじゃない、そうじゃないんだ。 『お前もそう思うよな、昴。 俺はさ、お前に出会えてよかったよ。 一緒にメグムを好きでよかったって思うんだ。 もし、メグムがいなくなって、たった1人でその事実やその思い出を抱えて生きるのは辛すぎるからさ。 昴がいたら、2人でその事実やメグムの思い出を共有できるんじゃないかって。 メグムが生きているうちは、2人でたくさん愛してあげられるし、たくさんの思い出を作ることができる』 シャインは、俺の頰を触った。 そして、いつの間にか流れ出た俺の涙をそっと拭う。 『本当、俺たちよく似てるよ』 「........シャイン」 『本当は、俺は、いつもどんな時も、メグムのそばにいたいんだけど....できないからさ。 昴、お前がメグムのそばにいてあげてよ。 そして、メグムの色んなことを俺に教えてほしい。 2人でメグムを愛し続けるって決めたんだから、俺たちも一緒に歩んでいこうよ、な、昴』 この人は、すごいな。 俺が言いたかったことを、ちゃんと言葉にして俺にキチンと伝えてくる。 メグムが前言ってたのが、ようやく分かった。 〝お前には、シャインを忘れさせることは、できない〟って。 でも、今はなんか嬉しかったんだ。 同じ顔をしたこの人が、俺と同じ目線に立って、同じようにメグムを見て、同じように愛してくれるってことが、嬉しかったんだ。 メグムの1番には.....なれなかったけどさ。 俺はメグムのおかげで、すごく大事な人を見つけた気がしたんだ。 ✴︎ 目が覚めたらさ。 2人して笑顔で僕を見下ろしていて。 僕は....2人の首に腕を回してしがみついた。 2人の体温が心地よくて、離れたくなかったんだ。 どっちも好きだなんて.....どっちも選べないからって。 2人は優しいから。 僕のワガママを聞いてくれて....僕を突き放すこともできたのに.....。 ......だから、心がイタイ。 2人に愛されて嬉しいんだけど、心がイタイ....。 「.......シャイン、昴.......ごめん」 『なんで謝るの?俺たちが決めたことだよ?』 シャインが僕の左耳に囁く。 「メグムは正直に生きるんだろ? 俺たちも正直に生きるんだよ。それでいいじゃん?」 昴は僕の右耳に囁く。 神様は.....イジワルなのかな......それとも......。 「メグム、泣くなよ〜」 『しかしさ、メグムって趣味ハッキリしてるよな』 「本当、それ! 全く同じ顔の人を好きになるなんてさ、なかなかないよ?」 『これがさ、全く正反対の顔とかだったりしたら、怒りがこみ上げてくるとこだったよ、マジで』 「わかる!シャイン、それわかる!!」 『だろ!?昴もそう思うよな?!』 .....僕は思わず笑ってしまった。 僕が2人に攻められて、意識がとんでる間。 この2人は一体どんな話をしたんだろう.....。 すっかり意気投合して.........楽しそうだ。 そして、2人がうらやましくなった。 僕がもし、2人の前からいなくなったとして。 シャインと昴は、ずっとこんな感じで楽しそうに僕のいない時間をすごすんだ.....って。 ーできれば。 こんな風に、楽しそうに.....。 僕のことを話していて欲しい。 僕のことを忘れないでいて欲しい。 ダメだなぁ、僕は。 一つ願いが叶うと、もっともっと、って思って、どんどんワガママになっていく。 『なんだよ、なんで笑ってるんだよ。メグム』 「あ!本当だ!さっきまで泣いてたクセに」 僕は2人の頰に手を添えた。 「.....シャイン、昴。 僕さ、今、すごく幸せだ.....。 出来ることなら、今、死にたい」 『なっ!!....何言ってんだ、メグム!!』 「教官のクセに!言っていい冗談と悪い冗談の区別もつかないワケ!?」 そしてー。 2人は示し合わせたかのように、僕の身体にキスをする。 「.....ん...ちょ、ちょっと.....僕、もうムリだよ」 『メグムがいけないんだろ?』 「そうそう、メグムが悪い」 ......また、また。 僕に押し寄せる.....快楽。 息が、あがる。 シャインと昴の2人に愛されて.....。 これって....これってさ.....。 神様の、ご褒美......なのかな?

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