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39話

翔がいなくなった病室は少し... いや、だいぶ気まずい雰囲気だった。 「あ、あの...す、すみません! わ、悪気はなくてですね...」 あまりにも、静かな空気に耐えられなくて とりあえず翔の行動を謝った。 「...良い友達を持ってるな。」 「えっ...あっ、ちょっと 過保護なんですけどね。あははは...」 良かった...怒ってない。 翔は時々相手が誰かも分からずに 戦いに挑むから怖いんだよ... 「あの、大和先輩。 できたら...僕と千景先輩の 2人にしてもらってもいいですか?」 「...大和...」 千景先輩のか細い声が聞こえた。 「千景。後悔する選択はするなよ。」 大和先輩はそう言うと、静かに病室を出ていった。 「お久しぶりです。千景先輩。」 「...。」 千景先輩はずっと下を向いたままだった。 「僕はあの日、休憩所を目指して標識通りに歩いていたはずなのに、なぜか行き止まりなっていました。」 千景先輩の体がビクッと動いた。 標識を変えたのは、千景先輩なのだろう。 「そして、気づいた時には... 僕の体は、宙を舞っていたんです。 誰かに...背中を押されたせいで。」 千景先輩が勢いよく視線を上げ、 首を横に振った。 明らかに、怯えているようだった。 「ち、千景じゃない...そんなことしてない!たしかに、標識は変えたけど... こ、こんなことになるなんて... 思ってもいなかったんだ! 少し、困ればいいって思っただけで...」 「千景先輩。」 「で、でも、突き落としたりはしてない! 本当に...してないんだ...」 必死に僕に伝えていたのに、 だんだんと千景先輩の声が小さくなって、 顔も下を向いていた。 「分かってますよ。」 「え...」 今にも涙が溢れそうな千景先輩と目が合った。 「千景先輩がやってないこと。」 「どうして、僕を信じてくれるの? ち、千景が...やった証拠しかないのに... 誰も...ヒック...千景のこと... ズッ、信じようとしないのに...」 我慢していた涙がボロボロと流れ落ちていった。 「どんなに証拠があったって 違う時はあります。 それに、僕は信じてるんです。」 今までの千景先輩を... 信じたいから。 「モジャ男くん... ご...ごめんねぇぇぇぇぇえ...」 「もう泣かないでください笑 あ!千景先輩に協力して欲しいことがあるんです。」 「...ズッ、協力して欲しいこと?」 「はい。僕を突き落とした犯人を捕まえる協力です。」 あの人がいなくたって僕はやっていける。 もう、頼ったりしない。 そう。心に言い聞かせた...

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