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20話

「...い。おい。聞いてるのか。」 「...あ!はい!聞いてます!」 次は無い。そう目で言われた気がした... 「もうひとつの話は、明日からのお前の仕事についてだが...」 ヴーヴーヴー... タイミングがいいというべきか悪いというべきか僕のケータイが鳴った。 「...」 ヴーヴーヴー... 「やかましいから出ろ。」 「はいっ」 ピッ 着信は翔からだった。 部活が早く終わった連絡かな? 「あ、翔、ごめん、ちょっとい...翔、泣いてるの? どうした、え、あうん。...え?い、今?あ、ちょ!」 今すぐ会いたい って...無理でしょ... でも、あの翔が泣いてたし... 「す、すみません...ちょっと、急用ができてしまって...話は明日とかに...」 「...」 壱哉さんは、明らかに不機嫌な顔をしていた。 お、怒りますよね... どうしよう。普通はこっちを選ばなきゃだけど。 でも翔、泣いてるし... 「...あ、あの!ぼ、僕の仕事の話ですよね?」 「...。」 無視!? いや、肯定ととろう。うん。 「僕、なんでも、やります。あの〜書類整理とかお茶くみとか生徒会の仕事やります。」 さっきまで不機嫌だったはずなのに急に少し、ほんの少し口角が上がった気がした。 「’なんでも’やるんだな?」 「はい!...はぃ?」 なんでもだけ強調されたのがちょっと引っかかったけどまぁ、ある程度は過去でも経験してきたし、大丈夫。うん、だい、じょうぶだよね? 「じゃあ、今日は帰っていい。」 「あ、ありがとうございます! それじゃあ、お先に失礼します!」 ドアノブに手をかけた時、思い出した。 この部屋、中から出る時、暗証番号が必要なんだった... 入る時は楽なのに出るのは大変だなんて蟻地獄だよ 「あ、あの...暗証番号って...」 一瞬、壱哉さんの眉間にシワが寄った気がした。 気のせい...かな? 「今、鍵はかかってない。」 ガチャ 「ほんとだ... すみません!失礼します!」 そこから1回も止まらずに校門まで走った。 翔が泣くなんて滅多にないから。 子供のとき、3階からふざけて落ちて骨折になっても泣かなかったんだから... 最悪なことしか思い浮かんでこない。 部活でいじめられた? 翔、強いから嫉妬とかされるだろうし... それか、僕を襲ったやつになんかされたとか? ずっと胸がザワザワして怖い。 いつもより校門が遠く感じた。 僕は、止まらずに走り続けた。

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