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34話
そして、昼休み。
ブーッブーッ
「......。」
まただ。
今日はこれで3回目。
僕は一瞬、
見なかったことにしようかと思った。
ブーッブーッ
「...。」
無理だよね...
「はい...」
『どこだ。』
「教室です。」
『天空テラスに来い。』
「...え?」
また天空テラス?
嫌な予感しかしないんだけど...
「何かあるんですか?」
『5分。』
「え?」
『5分以内に来い。』
「ちょ、待ってくだ――」
プツッ
「......。」
また切られた。
「今度は?」
「...天空テラス。」
「また?」
「...うん。」
翔も前回のことを思い出したのか、
呆れたように僕を見る。
「またコーヒーじゃね?」
「...まさか。」
いくらなんでも、
コーヒーを淹れるためだけに
何度も呼び出したりしないでしょ。
...しないよね?
時計を見る。
「やばっ!」
もう1分経ってる!!
「い、行ってきます!」
「はいはい。」
僕は急いで教室を飛び出した。
**********
「はぁ...はぁ...」
天空テラスへ続く扉の前で、
一度呼吸を整える。
なんとか5分以内には着いた。
...はず。
扉を開ける。
「失礼しま――」
その瞬間、
僕は足を止めた。
「......。」
壱哉さんだけじゃない。
そこには、
見覚えのある二人の姿があった。
あの人たちは確か――
須藤 咲(すどう さき)先輩。
名門、須藤家の跡取り娘。
文武両道で、
何をやらせても完璧にこなすことで有名な3年生。
そして、もう一つ。
九条壱哉親衛隊の隊長でもある。
その隣にいるのは、
新島 律(にいじま りつ)先輩。
須藤財閥の傘下にある
新島製薬の跡取り。
同じく3年生で、
九条壱哉親衛隊の副隊長。
二人は親衛隊の代表という立場から、
天空テラスの使用を許可されている。
僕も二人のことは知っていた。
だけど――
話したことは、
ほとんどない。
前の世界では、
僕と壱哉さんが付き合い始めてから
親衛隊は自然と消滅していったからだ。
だから、
この二人がどんな人なのか。
僕は、ほとんど知らない。
「......。」
それにしても...
痛い。
須藤先輩の視線が、
ものすごく痛い。
「おい。」
「は、はい!」
突然呼ばれて、
肩が跳ねる。
壱哉さんが時計を見る。
「4分42秒。」
「え?」
「遅くはないな。」
「......。」
そこ、
ちゃんと計ってたんだ...
「それで...何ですか?」
「コーヒー。」
「......。」
「なんだ。」
「い、いえ...」
本当にコーヒーのために...
僕をコーヒーマシンだと勘違いしてない?
「...分かりました。」
仕方なく、
コーヒーを淹れに向かう。
カップを用意して、
コーヒーを注ぐ。
そして――
いつものように、
少しだけ蜂蜜を入れる。
「どうぞ。」
「あぁ。」
壱哉さんは受け取ると、
何の迷いもなく口をつけた。
「......。」
「...?」
なんだろう。
視線を感じる。
恐る恐る横を見ると――
「......。」
須藤先輩が、
僕の手元をじっと見ていた。
「九条様。」
「なんだ。」
「そちらの方は...?」
あ。
そういえば、
ちゃんと紹介されたことはないんだっけ。
「生徒会長補佐だ。」
壱哉さんは、
それだけ言って再びコーヒーを飲んだ。
「...生徒会長、補佐?」
須藤先輩の表情が、
ほんの少しだけ変わった。
「はい...吉永羽瑠です。」
「...須藤咲よ。」
知ってます...
とは言えないので、
僕は軽く頭を下げた。
「新島律です。」
その隣から、
穏やかな声が聞こえる。
「よろしくね、吉永君。」
「あ、はい。
よろしくお願いします...」
...普通の人だ。
むしろ、
須藤先輩より話しやすそう。
そう思った、その時。
「おい。」
「はい?」
「薄い。」
「え?」
壱哉さんが、
コーヒーカップを僕に差し出す。
「...いつもと同じですけど。」
「今日は薄い。」
「......。」
そんなはずないんだけどな...
「淹れ直せ。」
「...はい。」
仕方なくカップを受け取る。
その時――
「九条様。」
須藤先輩が口を開いた。
「コーヒーでしたら、私が――」
「いい。」
「...。」
壱哉さんは、
須藤先輩を見ることもなくそう言った。
「こいつの仕事だ。」
「......。」
えぇ...
僕の仕事だったんだ...
初めて知ったよ。
「...分かりました。」
須藤先輩は笑顔を崩さなかった。
だけど、
なぜかさっきよりも
視線が痛くなった気がする。
僕は急いでコーヒーを淹れ直した。
「今度はどうですか?」
壱哉さんが一口飲む。
「...。」
「......。」
「まぁいい。」
「......。」
なんなんだよ!!
さっきとほとんど同じですけど!?
「じゃあ、僕戻ってもいいですか?」
「あぁ。」
「失礼します...」
やっと解放される...
僕は軽く頭を下げて、
その場を離れようとした。
「あ、吉永君。」
「え?」
振り返ると、
新島先輩が僕を見ていた。
「大変そうだね。」
「あ...」
思わず壱哉さんを見る。
「...まぁ。」
否定できない。
新島先輩は、
小さく笑った。
「頑張って。」
「...ありがとうございます。」
やっぱり、
この人は話しやすそうだ。
「律。」
須藤先輩が、
静かに名前を呼ぶ。
「ん?」
「余計なこと言わなくていいの。」
「はいはい。」
「......。」
僕はもう一度頭を下げて、
天空テラスをあとにした。
**********
「はぁ...」
疲れた...
ただコーヒーを淹れただけなのに、
なんでこんなに疲れるんだろう。
それに...
須藤先輩。
前の世界では、
ほとんど関わることがなかった人。
あんな人だったんだ...
「......。」
まぁ、
もう会うこともそんなにないよね。
そう思いながら、
僕は教室へ戻った。
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