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36話

あれから数日。 僕の生活には、 すっかり新しい習慣ができていた。 ブーッブーッ 「......。」 机の上で震える携帯を見る。 ...いや。 習慣というより、 もはや恐怖の音だ。 「羽瑠、鳴ってるぞ。」 「...分かってるよ。」 「出ねぇの?」 「......。」 出たくない。 でも、 出なかったら出なかったで、 あとが怖い。 「...はい。」 『遅い。』 「まだ3回しか鳴っ...」 『生徒会室に来い。』 僕、まだ話してたんだけど? 「...今度はなんですか?」 『来れば分かる。』 プツッ 「......。」 相変わらず、 人の話を聞かない。 「また?」 「...うん。」 「お前最近、九条先輩の奴隷みたいになってんな。」 「ど、奴隷じゃ...」 否定したい。 否定したいけど... 書類を届けて、 コピーをして、 先生を呼びに行って、 コーヒーを淹れて。 この前なんて、 わざわざ別の校舎まで 書類を取りに行かされた。 しかも、 急げと言われたから走って戻ったのに、 『遅い。』 の一言。 ...理不尽すぎる。 「うん、奴隷だね。」 「......。」 言い返せない。 「でも、前みたいに嫌がらなくなったよな。」 「え?」 翔の言葉に、 思わず顔を上げる。 「最初なんか、生徒会室行くだけで死にそうな顔してたじゃん。」 「そ、そんな顔してないよ。」 「してたって。」 「してない。」 「してた。」 「......。」 ...してたかもしれない。 だって、 最初は怖かった。 壱哉さんと同じ空間にいるだけで、 昔のことを思い出しそうで。 また、 好きだった頃の自分に戻ってしまいそうで。 できることなら、 関わりたくなかった。 「最近は文句言いながらも普通に行ってんじゃん。」 「それは...」 「慣れた?」 慣れた... のかな。 携帯が鳴るたびに、 嫌だとは思う。 また何を頼まれるんだろうって、 ため息も出る。 だけど―― 前みたいに、 胸が苦しくなることは、 少なくなった。 「...ただ、諦めただけだよ。」 「諦めた?」 「どうせ断っても、聞いてくれないし...」 「あー。」 翔が納得したように笑う。 「それは確かに。」 「でしょ?」 「でもさ。」 「ん?」 「お前、ちょっと楽しそうだぞ。」 「.........は?」 何言ってるの? 「どこが!?」 「ほら、それ。」 「何が!?」 「前だったら九条先輩の話しただけで、もっと暗い顔してたじゃん。」 「...してたけど。」 「今は普通に文句言ってる。」 「文句言ってるんだから、 楽しいわけないじゃん!」 「はいはい。」 「本当に違うから!」 「分かったって。」 絶対分かってない。 「......。」 楽しいわけない。 絶対に。 ただ、 少しだけ、 今の壱哉さんに慣れてきただけ。 昔の壱哉さんと、 今の壱哉さんは違う。 それが少しずつ、 分かってきただけで―― ブーッブーッ 「......。」 「また鳴ってるぞ。」 「え!?」 さっき切ったばっかりなのに!? 画面を見る。 やっぱり、 あの人だ。 「早く来いって催促じゃね?」 「......。」 ありえる。 ものすごくありえる。 「...行ってきます。」 「頑張れ、奴隷。」 「だから奴隷じゃないって!」 「じゃあ何?」 「生徒会長補佐!」 「やってることは?」 「......。」 書類。 コピー。 コーヒー。 「...行ってきます。」 「現実から逃げんなよ〜。」 「うるさい!」 翔の笑い声を背中に受けながら、 僕は重い足を引きずって、 教室を出た。

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