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犬と猿※
魔王討伐の旅に新しく騎士が入り、戦線から退けさせられてから数日。俺は、パーティーの雑用として旅について行っていた。
目的地である隣町に辿り着く。
前回の街に比べれば少都市ではあるが活気があり、屋台や飲み屋が多い。賑やかな街を抜け、俺達はまず今日の寝床を探す。それから、夜までの自由行動。
俺たちのパーティーはそれぞれが自由なやつらが多い。おまけに全員我が強い。だから、その日一日だけ自由行動を用意し、翌日から大きなクエストを受けたりする。
以前俺は自由行動時は鍛錬したり、たまに鍛冶屋を覗いたりしていたが、今は違う。
宿屋一階。
「それじゃ、今日はここで解散だな。また明日の朝ここで会おう」
勇者の言葉を皮切りに、魔道士と盗賊はさっさと宿屋から出ていった。騎士も少し迷ってから外へ行ってるようだ。まだ日も明るい。俺も、本来ならば街へ出てるだろうが――今の俺にそんな決定権はない。
「お前は俺と来い」
ああ、ほら。と息を飲む。皆がいなくなったロビー。
勇者の言葉に、喉が乾いていく。
……決定権はないのだ。
「っん、ぅ……ッぐ、ぷ」
宿屋、勇者の部屋。
武器や荷物を部屋の中に置くなり、勇者は『咥えろ』と命じてきたのだ。性急な行為も、今更だ。まだ風呂にも入っていないのにと躊躇はしたものの、俺はそれを断ることはできない。
ベッドに腰を下ろした勇者の股の間、膝をついて俺はただ無心で目の前のそれを咥えた。
男のものなど舐められたこともなければ舐めたこともない。どうすれば気持ちいいのか、まるでわからない。拙い動作で目の前、勃起した一物に唇を押し付けた。
なるべく鼻で呼吸をしないように、目を瞑った俺は飴玉を舐める要領で目の前のそれを愛撫する。快感を得ることすらできない技巧もクソもない拙い口淫だ。それでも、目の前の男性器は明らかに反応してるのだ。
「っ、お前……口ちっさいな」
「っ、ぅ……るへ……ッ」
「ん……っおい、歯、立てるんじゃないぞ」
時折こそばゆそうに呻く勇者はそう、俺の横髪を掬っては耳に掛けさせるのだ。俺は無視して舌を出し、側面を舐める。浮かぶ血管を舌でなぞり、そのまま先っぽの亀頭部分へと唇をくっつければ、勇者は声を漏らした。
……すげえ、熱い。つか、頭くらくらする。
窓の外、差し込む日の光を浴びながら、かつての親友のものを必死に咥えようとする自分の姿を考えるとどうしようもなく薄暗い気持ちになる。何をしてるんだ俺はという、村の皆に対する罪悪感。それ以上に、得体の知れない感覚に胸の内側を擽られるのだ。
「……っ、ん、ぶ……ッ」
辛うじて咥えた亀頭を口の中、尖らせた舌でカリから尿道までねっとりと舐め上げる。いち早くこの行為を終わらせたかった。多分、ここが好きなのだろうと思うところを舌で擽る。裏筋の太い血管まで舌をれろぉっと這わせれば、それだけであいつの息は乱れるのだ。
「……っ、く、ぅ……」
「っ、ん……ぅ、ぶ、むぅ……っ」
「どこで、覚えてきたんだ……っ、そんなの……」
お前が、覚えさせたんだろ。という言葉は飲んだ。
正直、腹が立った。まるで人をなんだと思ってるんだ。お前以外、こんなこと覚えさせるような物好きはいない。
その意を込めて、こいつの弱いところを執拗に舌で責め立てる。頑張ってもっと咥えようかとも思ったが、狭い喉を性器が圧迫するだけで嗚咽が漏れ、苦しくなるのでやめた。その代わりに、亀頭にキスをし、尿道を舌で穿れば勇者は声を漏らした。小刻みに震える腰を掴まえ、愛撫する。いつの間にかに勇者の手は俺の後頭部を捕らえ、固定していた。口の中で唾液と先走りが混じり、嫌な味だ。それでも、興奮した脳はその不快感すらも麻痺させてくれるようだ。俺は夢中になって勇者のものを愛撫していた。
部屋の中いっぱいに広がる耳障りな粘着質な音。
勇者の吐息が生々しくて、あいつが感じてる。そう思っただけで、喜びすら覚えるようになってしまっていた。あいつが他の奴らには見せない顔、弱点を俺は知ってる。
それは、あいつからしてみても同じことだが。
口で咥えられない部分は手で弄ぶ。溢れた唾液と先走りで濡れた根本から全体を指で作った輪っかで扱き、射精したいのかぱんぱんになった睾丸を柔らかく揉めば勇者の呼吸のスパンは明らかに短くなっていくのだ。
「っ、ぅ……っ、は、出る……ッ」
「っ、ん、ぶ……っ、いいぞ、このまま……出せよ……っ」
ちゅぽちゅぽと濡れた音が響く。鼓動が、混ざり合う。俺も、こいつも、旅の疲れで久し振りのベッドを前におかしくなっていたのかもしれない。だから、勇者のものを咥えたまま、俺は更に勇者に奉仕した。後頭部、掴んでいた勇者の指に力が入る。瞬間、俺の頭を引き離された。そして、目の前のそれが跳ねたと思った次の瞬間、顔面にどろりとした熱が飛び散った。
「っ、は……ぁ……っ」
熱に溶け切った勇者の目が、俺を見下ろしていた。どろりとしたなにかが、頬から落ちていく。それをそっと拭えば、半透明の液体が指に絡みついた。
「……お、まえ……」
「……っ、悪い……大丈夫か、目に入って……」
「ねえよ……顔、洗ってくる」
射精して満足したのか、やつのものが萎えてるのを確認して俺はその場を離れようとして、やつに引き留められた。
「……お前はまだイッてないだろ」
「っ、な、に言って……俺は、別に……」
いい、大丈夫だから、と断ろうとして、ベッドの上へと引き摺り倒される。そのまま上に覆い被さってくるあいつは、いつの間にかに膨らんでいた俺の下腹部に触れるのだ。それだけで、びくん!と体が跳ねる。
「おれは、いい……大丈夫だから……っ」
「俺がしたいって言ってるんだ」
「……っ」
命令。……拒否権はない。
やつを拒んでいた震える手を恐る恐る下げる。まな板の上のなんとやら。こう言われてしまえば、俺はもう受け入れることしかできない。
「は、やくしろ……っ」
恐怖と言えば恐怖に近いのだろう。
自分が自分でなくなっていくようで怖かった。
初めてあいつに抱かれたあの夜から、俺は何度もあいつに抱かれた。野宿を強いられた数日間、他の奴らが眠ってる中で「したい」と言われたときはどうしようかとも思った。それでも、人間というのは恐ろしく順応性が高くできているようだ。俺は、あいつから抱かれることに対して慣れのようなものを覚え始めていた。
もう今までのあいつではないのだと、そう思えば割り切れることもできた。それに、あいつはしつこいが俺が痛がるようなことはしない。寧ろなるべく俺が痛くないように丹念に、寧ろ執拗なまでに慣らすほどだ。その間に果てたことが何度あっただろうか。
それでも、なんとか続けてこれたのは相手があいつだからだ。よく知っていて、信頼をおけるあいつじゃなければ俺はとっくに耐えきれなくなっていたかもしれない。
そして、いつものように勇者に抱かれ、身を清める。
気づけばあれほど明るかった窓の外も暗くなっていた。勇者から解放されたのはいいが、鍛冶屋を覗く時間はなさそうだと諦めた俺はせめて鍛錬できないかと一人になれそうな広い場所を探しに街へと出た。
「よぉ、ガキが一人でこんな時間に彷徨いてたら危ねーぞ」
宿屋を出て街を探索してるときだった。
いきなり肩を叩かれたと思いきや、飛んできた不躾な言葉に耐えられず腰の剣を抜こうと鞘を手にしたとき。「うおっ!」と驚いたような声が聞こえた。
「危ねえな、俺だって、俺。お前、自分のパーティーの顔すら覚えてねえのかよ」
「……お前……」
「あ、元だっけか」とニヤリと笑う男。暗がりでよくわからなかったが、目を拵えれば確かに見覚えのある顔だ。
「盗賊野郎……!」
「だから、シーフだっつってんだろ。人聞き悪いんだよ毎回毎回、誰のお陰で宝箱開けられてると思ってんだ?」
「……盗賊もシーフも似たようなものだろ」
「ちげえよ、犯罪者と一緒にすんなっての。俺はサバイバル専門だって何度も……」
言いかけて、盗賊は「あー、やめだやめだ」と苛立ったようにその髪を掻き毟る。
「勇者にしか懐かないお前がろくに覚えてねえパーティーの連中の職業まで覚えれねえよな。こりゃ悪かったわ」
「……」
「それで?一人か?いつも一緒のあいつはいねえのかよ」
「残念だったな、俺一人だよ。あいつに用があるなら宿に戻れよ」
じゃあな、とそのまま盗賊――シーフの横を通り過ぎようとして、「待てよ」と上半身を腕で掴まれる。ふいに、やつの手が胸に触れ、ぎょっとする。何事かと顔を上げた時、一瞬、やつの顔に軽薄な笑みが浮かぶ。
「さ、わるな……っ、まだ何かあんのかよ」
「つれねえなぁ?雑用君、勇者とばっか遊ばねえで俺にも付き合えよ」
「は?なんでお前と……」
遊ばなければならないのか。そう反論しようとしたとき、いきなり伸びてきた腕に肩抱かれる。そしてぐっと抱き寄せられたその耳元、やつの唇が近付いた。
「あいつのチンポしゃぶるくせに俺と飲みには付き合えねえのか、いい趣味してんな」
囁きかけられたその言葉に血の気が引いた。
咄嗟にやつの手を振り払う。聞き間違いだと思いたかった。けれど、こちらを見るその目は確かに侮蔑を孕んだもので。
「昼間っぱらからよくやるな。ここ最近あいつがお前とばっかいるからなんかと思えば、なるほどなぁ。そこまでしてこのパーティーに残りたかったのかよ」
見られたのだ、あいつとの行為を。
そう理解した瞬間、全身の熱が顔面へと集まる。
いつだ。……まさか、さっきか。
言葉を失う俺に、シーフはニヤニヤと笑う。
「魔道士に知られちゃまずいんじゃねえの。あいつお前のこと嫌いだし、おまけに潔癖だからな」
「……っ、脅すつもりか」
「誤解するなよ。俺は便利な雑用君を脱退させようなんて思わねえよ」
やつが何が言いたいのかわからず、イライラした。それ以上に、あんな姿をこの男に見られたことが不愉快で、耐えられない。
「何が言いたいんだよ。……金なら、あんたの方が持ってるだろ」
「お前みたいな貧しいガキから金巻き上げる外道に見えるか?俺が」
「……」
「さっきも言っただろ、たまには俺と付き合えって。奢ってやるから」
「な?」と笑うシーフ。楽しそうに細められる目に、ただムカついた。冗談じゃないと思うのに、勇者の顔が過る。もしここで俺が断ったことで勇者になにか言うんじゃないかと思うと、落ち着かない気持ちになるのだ。
「……俺は、アンタが何考えてるか理解できない」
「へえ?なんでだ?」
「俺の顔見て食事したって楽しくないだろ。……それに酒も不味くなる」
正直、そこが引っ掛かった。この男にはなんのメリットもないはずだ。だからこそそこまでして俺を誘う理由が見当付かない。何を企んでるのだ。じとりと見上げれば、シーフは「お前らしいな」と喉を鳴らして笑った。
「俺は別にお前のこと嫌いじゃねえんだよ。お前は俺のことを嫌ってたようだけどな」
「……っ」
嘘だ、と言いかけて、息を飲んだ。
こいつのことは最初から気に入らなかった。あいつには馴れ馴れしいし、盗賊ではないと言うが手グセも悪ければ偉そうな態度は鼻につく。
今まで俺に対して好意的な態度だったか?言われてみれば、第一印象が悪すぎてあまり関わろうとしなかったのも事実だ。
もし、俺の思い込みだとしたら?この男なりに俺と親しくなろうとしてただけだとしたら?
「……食べる、だけなら」
「へえ?」
「アンタが言ったんだから、奢るって」
そう言えば、やつは「はいはい」と笑った。
「この街には前に来たことあるんだ。美味い飯食わせてやるよ」
今思えば自暴自棄になっていたのかもしれない。
あいつの性欲処理をさせられ、パーティーのやつからは白い目で見られ、自尊心すらもずたずたに踏み躙られて。
今まで気に入らなかった男でも、俺のことを一人の人間として見てくれると言われて嬉しくなかったわけではない。けれど、反面全てを信じるつもりもない。相手は生きるために何でもやってきた男だ。口八丁で街の女を口説く姿も見たことがある。
だから、タダ飯を食らうだけだ。それだけのつもりで俺はこの男について行くことを決めた。
面倒になったら逃げればいい。そんな気持ちで俺たちは賑わう夜の店へと足を踏み込んだ。
それが、数十分前。
「……っ、う……ん……」
「おい、お前もう酔ったのか?」
「酔って……ない」
普段酒なんて飲まなかったからか、久し振りの豪勢な飯だからか、気分の問題もあるだろう。自分でもこんなに弱かったはずではないのに、と思うが、酒の回りが明らかに早い。頭が重く、視界がぶれる。
仕事終わりの人間たちで賑わう店内。
隣に座るシーフは傾きかける俺の体を支えてくれた。
「本当かよ。顔真っ赤だぞ」
「シーフだって……」
「俺は……別に普通だ」
「……嘘、だな」
するりと、目の前にあるシーフの頬に触れる。ぴたりと触れただけでも指先に熱が伝わるのだ。「熱い」と呂律の回らない口で呟いた時、シーフに手を取られた。骨っぽく、硬い指先。
「お前の方が熱いぞ」
するりと絡められる指に、朦朧とした頭の中俺はその手を振り払おうとするが、できなかった。
「……っ、シーフ」
テーブルの下、重ねるように握り締められる手に息が止まりそうになった。いくら酒に当てられた頭でも、ここまで露骨に触られれば誰だって気付く。
店の片隅、回りの人間は誰一人こちらに気付いていない。
「お前、いつも勇者と二人のときはそんな可愛い顔してんのか?」
「……っ、ふざけ、てんのか……っ」
「いいや大真面目だ。……悪くねえな」
何がだ、何を言ってるのだ。この男は。理解したくない。ぐわんぐわんと揺れる頭の中。帰りたいのに、立ち上がることができない。腰を抱かれ、距離が近付く。酒の匂い。喧騒。
「いい加減に、しろ……っん……っ」
伸びてきた手に太ももを掴まれ、そのまま足の付け根まで撫で上げられればそれだけで息が詰まりそうになった。「おい」と睨むがお構いなしにその手は俺の下腹部を撫でる。片方の手では酒を飲みながら、まるで涼しい顔して人の体を弄るのだ。
「……やべ、ムラムラしてきた」
「っ、見境なしかよ、アンタ」
「男はねえわって思ってたんだけど、お前は正直全然アリ」
ちゅ、と耳の裏に唇を押し付けられ、背筋が凍り付く。殴りたいのに、力が入らない。酒のせいか。触れられるだけで体が熱くなって、反応してしまう。日頃あいつが妙なことばかりさせてくるからだ。そうに違いない。
「場所、変えるぞ」
勝手に決めるな。俺は、お前なんかと付き合うつもりはない。そう言いたいのに、言葉が出ない。熱い。伸ばされた手を振り払おうとするが、それを軽く往なされ、抱き起こされた。「お姉さん、勘定」と店員に声をかけ、支払いを済ませるシーフにそのまま店から連れ出された。
「っ、は、なせ……」
店から出るや否や店と店の隙間、細い路地裏に連れ込まれる。
おい、とやつの腕を振り払おうとした時。壁に体を押し付けられる。ぶつかる背骨に痛みを感じる暇もなかった。
「っおい……っ、ん、ぅ……っ!」
視界が遮られる。夜の街の喧騒が遠くなり、その代わり、自分の心音が恐ろしく大きく響いた。唇に這わされる舌は閉じた唇を割り開いて入ってくるのだ。
それを拒もうとするが、鼻の頭を摘まれれば息が出来ず、堪らず口を開いてしまう。瞬間、ぬるりとした肉厚な舌が強引に口を抉じ開け、入ってくるのだ。
「ん、ぅ……っ!ふ―ッ、ぅ……っ」
酒の匂いに目眩を覚える。押し退けようと伸ばした手を取られ、更に壁へと縫い付けられれば身動きすら取れない。抜けそうになる腰、震える足の間に潜り込まされたやつの足に股の間を押さえつけられれば、全身がびくりと震えた。
「っ、ん、ぅ……ッ」
嫌だ。勇者以外、あいつ以外と、こんなことしたくない。
あいつだからこそ耐えられたのに、そう思うのに、頭と体がまるで噛み合わないのだ。舌と舌の粘膜同士を擦り合わせるように絡められ、口の中いっぱいに響く品のない音。逃げようと舌を引っ込めようとしても、顎を掴まれ更に長い舌に絡め取られては先っぽまで執拗に絡め取られてしまうのだ。
「っ……ふー……ッ、ぅ、ん……ッ」
舌の先っぽを吸われるだけであいつのせいで染み付いた快感を呼び起こされ、まるで、自分の体ではないように反応してしまうのだ。相手が、こいつだとしてもだ。それが癪で、舌を噛んでやろうと思うのに力が入らない。
甘噛みが精一杯な俺に、やつも俺が何をしようか気付いたらしい。鼻で笑い、そして、唾液で濡れた唇を拭う。
「は……ふ……っ」
「ははっ、こりゃあいつが手放さねえわけだな」
「な、に言っ……へ……っ」
瞬間、胸元に這わされる大きな手のひらにぞっと背筋が震えた。ムズムズする。感覚が薄くなってるはずなのに、触れられた箇所が熱い。
平らな胸を撫でていた無骨な指先は服の上から分かるほど尖っていたそこに触れ、すり、と撫でられれば、衣類が擦れるその感触に堪らず体が反応する。
「……っや、めろ……っ」
「なあ、あいつにも触らせてんだろ?優しくしてもらってる……ようには見えなかったな。あいつ、あんな面してムッツリそうだしな」
「ぁ、や、……っ、めろ、さわっ、見るな……っ!」
徐に服をたくし上げられ、必死に裾を下げようとするが間に合わなかった。外気に晒された体は心許なさにぶるりと震える。薄暗い照明の下、やつの眼下に自分の胸が曝されてると思うとそれだけで屈辱だった。シーフは「まじかよ」と笑い、喉を鳴らすのだ。
昨夜も勇者に重点的に散々嬲られたそこは跡がびっしりと残っていて、その中心部、両胸の乳首は数日前、まだ性行為のせの字も知らなかった頃に比べて明らかに膨れていた。今までは胸、それも乳首なんて意識しなかったが、勇者が執拗に舌で嬲り、噛み、まるで性器のように愛撫するようになってから日常でも違和感を覚えるようになるほどだった。
何をしてても、服が擦れるだけで甘い痛みを感じ、鏡で見たときは気のせいだと思いこむようにしてやり過ごしてきたが、今、シーフが呆れてるのを見て俺は確信する。やはり、普通ではないのだ。
「……っ、は、こりゃ……えげつねえわ」
「……っ、み、るな……」
「見るなって言われてもな、目に入れない方が無理だろ。こんなの、見てくださいって言ってるようなもんだろ」
「ん、ぅ……ッ!」
ぷっくりと腫れるように尖ったそこを指先で撫でるように潰され、腰が震える。「やめろ」と声が上擦ったその一瞬、シーフの口元が歪んだ。
「っ、ふ、ぅ……ッ!ん、や、め……っ、さわ……るな……っ!」
「すっげえエロいわ、これ、元からか?じゃねえよな、前お前の裸見たとき、こんなんじゃなかっただろ」
「っ、ふ、ぅ……ッ!ん、ち、が……ッ」
「……なあ、いつからだよ。お前、いつからあいつに抱かれてんだ?」
「っ、誰が……ぃ、うか……ッ!っ、く、ひ……ッ!」
主張するそこから指が離れたと思った瞬間、そこを避けるように乳輪を撫でられ、ぶるりと胸が震えた。
恥ずかしい。情けない。なによりも、あいつとの関係をこいつに詮索され、二人だけの秘密を暴かれることが不快だった。それなのに、逃れられない。
「勇者が騎士を連れてきたときか?」
「……っ!」
「あいつが急に朝になってやっぱりお前を雑用として同行させるっつーからどういう心変わりしてんのかと思えば、はは、なるほどなぁ……お前、体売ったのか?」
呆れたような、それでいて、心の奥底まで見透かしてくるようなその目に息が詰まる。違う、そう、言いたいのに。乳首に触れないようにそっと撫でられるだけでより全身の神経は胸の突起に集中し、汗が滲んだ。息が浅くなる。中途半端に弄られたそこがジンジンと疼き始め、尖ったそこは痛くすらあった。触れてほしい、なんて、死んでも言いたくない。
「なあ、お前、パーティーから抜けたくなくてそこまでしたのかよ」
「っ、お、まえに……関係ないだろ……っ」
「いーや、あるだろ。俺だって、お前の仲間だ」
「……っ」
その一言に、胸の奥、心が反応してしまいそうになる。瞬間、顎を掴まれ、唇を重ねられた。短い口付けをし、やつは猫のように笑うのだ。
「なら、俺もあいつと同じ待遇で接してもらわねえと不公平だよなぁ?」
少しでもやつの言葉に喜びを覚えた自分を殺してやりたい。やはり、俺の認識は間違っていなかったのだ。
身勝手で自己中、それでいて口だけは達者。
こんなやつ、実力がなければ速攻勇者だって切り捨てていたはずだ。けれど、交渉術に罠スキル、サバイバルスキルは他の追随を許さない。こいつがいなければ旅の途中何度も危険なことになっていたのは違いない。こいつがパーティーに必要な人材だというのは重々承知していた。だからこそ、それを逆手に取ったやつの言動行動に吐き気がした。
お前を勇者と同じような扱いをしろだと?冗談ではない。そう言いたいけれど、明らかに今分が悪いのは俺だ。
「……な……んで、そうなるんだよ……っ」
「言っただろ?俺はお前のことが気に入ったって」
「嘘だ」
「まあ信じるか信じないかは好きにしろよ。けど、お前が嫌だってんならお前らのこと他の連中にバラしてパーティー抜けるわ」
「どうする?」と、シーフは先程と変わらない調子で聞いてくるのだ。まるで『今日の晩飯何がいい?』とでも言うかのような軽い調子で。ああ、と思った。こいつは俺が何を恐れているのか、全部気付いてるのだろう。それで、選択肢を与えるふりをして他の道を潰す。
最低最悪の野郎だ。やっぱり俺はこいつのことを一生好きになれないだろう。
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