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02
魔法は得意ではない。使うのも、使われるのも。
魔道士と会ってからそれが余計加速したのが間違いないだろう。
正直この男と二人きりというのも落ち着かないが、それでもこの男がいないと目的地に辿り着くことすら危うい現状だ。まだ周りに人がいるだけましか、そんなことをぼんやり考えながら前を歩く魔道士を追う。
「そういやお前、まだ勇者サマと喧嘩してんだって?」
大通り、いきなり話しかけてくる魔道士に思わず身構える。別に、とそっぽ向けば、魔道士は「別に、な」と意味深な笑みを浮かべる。
「普通なら勇者がお前を連れて行くだろうに俺に任せるんだもんな、よっぽどお前の顔が見たくないらしい」
「……っ、うるせえな、黙って前歩けよ」
「図星か」
「黙れって言ってるだろ」
「ここ、俺が産まれた場所だってのは言ったよな」
しらねえよ、と吐き捨てそうになったが人の話聞く気すらない魔道士にまともに受け答えする気にもバカバカしくなる。
睨み返せば魔道士はするりと俺の手を取った。当たり前のように手を握られ全身に寒気が走る。おい、と睨んだときやつは笑うのだ。
「なあ、このまま二人でどっか行くか」
この男はまだ諦めていなかったのか。
雑踏の中でもやけにハッキリと耳に残るのが余計不愉快だった。
「……行かねえ」
「なんで?」
「お前が嫌いだからだ」
「相変わらず強情なやつ」
対して傷ついた顔もしない、最初から俺が断ると思っていたのだろう。寧ろそう笑う魔道士は楽しそうでもあった。
それから魔道士に案内されてやってきた宿泊予定の施設前。
「……随分と古い建物だな」
「老舗だからな。まあ、中はまともだから安心しろ」
受付を済ませればロビーにはシーフと騎士がいた。
「随分遅かったなメイジ」
そう声をかけてきたのはシーフだ。
にたにたと笑いながらこちらを見てくる。
「これでも急いだんだがな、こいつが何度起こしても起きなくてな」
「悪かったな。……それより、あいつは?一緒じゃないのかよ」
そうだ、あいつの――勇者の姿が見当たらない。
尋ねれば、シーフと騎士が顔を見合わせた。
「あいつなら出掛けたぞ。ギルドへの手続きは明日するって言ってたし今日までゆっくりできるそうだ」
「一人でか?……珍しいな」
「ま、あいつも一人になりたい年頃なんだろ。メイジお前この辺で上手い飲み屋教えろよ」
「お前はそればかりだな。……まあいい、一旦荷物置いてくるから待ってろ」
良かった、この二人も出ていってくれるようだ。二階へと向かう魔道士を尻目に俺も自分の部屋へと向かうことにした。
それにしても、あいつが一人で出ていったのか。
今までだったら俺を誘ってくれたのに、と思ったがそれを断ったのは俺だ。あいつのことが気がかりだったが今の俺にはどうすることもできない。
そう自分に言い聞かせながら俺は自室へと向かった。
せっかくの自由なのだから外に探索でも行くかと思ったが、シーフたちと鉢合わせになって絡まれるのも嫌だ。部屋の窓から二人が飲み屋街に消えていくのを確認する。もう少し時間を開けて部屋を出るか、とベッドに腰を掛けたときだ。
控えめに扉をノックされる。
勇者もいない、シーフと魔道士も部屋を出ていった。そんな中、俺の部屋を尋ねてくる相手なんて限られている。
扉へ駆け寄り、慌てて開けばそこには予想していた人物がいた。
「……騎士」
「すまない、その……何してるかと思って」
「何もしてない、暇してたところだ」
「上がるか?」と声をかければ、騎士は緊張した面持ちで「いいのか?」と伺ってくるのだ。
この宿ではないが、何度も部屋に上げたことはあったのにそれでもまだ慣れない様子の騎士に俺は頷いた。
「別に、あんたなら構わない」
「スレイヴ殿」
「まだ荷物ちゃんと片付けてないから散らかってるけど、気にするなよ」
「あ、ああ……」
置きっぱなしになっていた荷物を壁際へと寄せる。椅子にも服をかけたままになってることを思い出す。流石に片付けとくべきだったな。
「適当に座っていいからな」
「いや、立ったままでも構わない。邪魔したのは俺だからな」
ベッドに腰をかける俺を横目に、騎士はそんなことを言い出すのだ。流石にそれは気の毒だ。
「いいから、こっち座れよ」
そう隣を叩けば、騎士は顔を強張らせた。
いや、しかし、と口籠る騎士。その頬が僅かに赤くなっていることに気付いた俺は、前回最後騎士と二人きりで話したときのことを思い出す。
だから、慌てて俺は散らかしていた服を片付け椅子を空けた。
「……これなら座れるだろ」
「自分に気を使う必要など……」
「俺が気になるんだよ、あんたが立ってると。ほら、座れよ」
「す、スレイヴ殿……わかった、座るからそう押さないでくれ」
椅子に座らせれば、騎士は上目がちにこちらを見るのだ。普段こちらが見上げてばかりだったのでこの視点は新鮮だ。
「アンタはシーフたちと出かけなかったのか?」
「一応誘われはしたが、俺は酒が飲めない。……だからシーフ殿には断った」
「酒は飲まなくても飯食うことはできるだろ」
「……確かにそうだが、その」
妙に歯切れが悪くなる騎士。
……まさかとは思ったが、この前シーフに見られたせいで騎士まであの男に絡まれてるんじゃないかと危惧したが騎士の口から出た言葉は俺の想像していたものの正反対の言葉だった。
「貴殿の様子が気になって、残ることにした」
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