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第9話

 光樹の自宅までついていく遠田がうらやましい気もするが、光樹から離れてホッとした。  平常心に、戻らなければ。  高身長とまではいかないがそれなりの体格はしているであろう俺とあの光樹が妖しい空気漂わせてたら、はた目によろしいわけがない。  実家に帰って自室のベッドに寝転ぶ。  音楽SNSのアプリを開くのが習慣になっちゃってて、イヤホンつけて光樹の声劇を聴いて、俺なにやってんのって愕然とした。  かわいい光樹が好きで好きでずっと大切にするって痛感したのに、別の男にすがってよがってまだ足りないとか俺最悪だろ!  ……いやいやいや、別の男じゃないし。  よりによって光樹を忘れて浮気するなんてとんだ畜生だなと一瞬自分に失望したが、浮気なんか、してない。  俺は変わらず一途に光樹を想ってる、で間違いない。  かわいかったころの光樹を忘れて今の光樹に没頭しても、なんの問題もない。  いや、忘れちゃダメだろ。  忘れるってことは、光樹の一部を否定することにならないか?  声劇を聴くと、顔に合わない声で真剣に台本を読み上げる光樹が思い浮かぶ。  そして、声劇の声は男前な光樹の雰囲気に合致する。  光樹のほうは、俺を慕う態度が過去も現在もなにも変わってない。 『過去の光樹』と『いい声』と『今の光樹』は、全部イコールで繋がる。  でも、なんか。  過去の光樹に対する罪悪感が、拭えない。  光樹を目の前にすると、愛したいより愛されたいが勝ってしまう。  盆が終わって帰る際は遠田の手前平常心を保ったが、アパートに光樹を上げて光樹に絡まれてると、もう抱いてくれよとたまらない気分になる。 「今日は気分乗らないのかな」  甘えた声で申し訳なさそうに言われると、光樹を思い出して安心する。 「いやもう、やる気満々なんだけどね」  言うと光樹は服の上から窮屈になっているものに触れてくる。  光樹は俺のためにいじらしく積極的になってるんじゃなくて、自然にこういうコトするのが好きなんじゃないだろうか。  かわいい少年というフィルターがかかってて気づかなかったのかも知れない。  じらすように触れながら、光樹が俺の目をのぞく。 「なんで困った顔してるんだろう」  なんでって。  男らしい光樹に発情するよりも、かわいい光樹に欲情してめでてむさぼって交わりたいから。  そうじゃないと、光樹に悪い気がする。 「今日は俺が抱く」 「俺も今日は春斗さんを抱きたいんだけど」  そんなこと言われたら、速攻で気持ちが揺らぐだろ。 「光樹はどっちがいいの? 抱くのと抱かれんの」  抱くほうがいいって言ったなら遠慮なく抱かれるほうに転向しようと、期待してる俺がいる。  そんな自分に、嫌気がさす。 「俺はどっちでも。春斗さんカッコいいけど、かわいいところもすごい、好きだから」  俺、かわいいか?  言われてみて、思い出す。  光樹が俺の声のこと解説したとき、『守ってあげたくなる』って言ったこと。  情けない俺のためになにかしたいと言ったこと。 「……なら今日は、抱かれたいかな」 「やっぱり? わかった」  光樹が嬉しそうにキスをしてくるから、遠慮なく抱かれた。  過去の光樹の中に俺を抱きたいという気持ちの片鱗があったなら、その光樹を裏切ったことには、ならないから。

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