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第10話
高校では光樹にしか告白されなかったのに大学生は色気付きやがって、いろんな奴が付き合ってる子はいるのかと聞いてくる。
男と付き合っているとは言えなくて、俺は遠田の許可を得て遠田の親戚と付き合っていることにしていた。
妹とか言ったら、弟いるの知ってる奴に突っ込まれるからな。
以前は遠田に似ていると言うと話はそこまでで終わっていたのだが、周囲と親しくなるにつれて怖いもの見たさで彼女の写真を見せろと言ってくる奴が現れた。
かたくなに拒否していたら、遠田の親戚じゃなくて遠田自身と付き合ってるんじゃないかと言い出す奴が現れた。
「なぁ俺、遠田と付き合ってるってことにしていいか?」
部活が終わってから一緒に夕飯買いに行く道中、遠田にそう聞くとやはり激しく反論された。
「いいワケないだろ!? 俺に彼女ができなくなるじゃねーか!」
ダメか。
最近隠し続けるのがしんどくなってきた。
相手を騙してること、光樹を隠すことで光樹を下げてるような気分になることが申し訳ない。
「光樹と付き合ってるの、言ったらどうなんだろ? やっぱ感じ悪い?」
客観的に見たらどうなのか、周りに同じような奴がいないからわからない。
なんとなく隠しとくもんな気がして、隠してる。
「俺は光樹知ってるからなー、人によるんじゃねーの?」
「黙ってると遠田と付き合ってることになりそうなんだけど 」
「それ困るからカミングアウトしちゃってくれる?」
遠田にはなんだかんだで助けられているから、これ以上は迷惑かけられない。
言っちゃうかやめとくかまだ迷っていると、遠田は少しマジメな顔で助言してきた。
「気ぃつかって嘘ついてよそよそしくなるのと、カミングアウトして感じ悪くなるの、どっちもどっちじゃねーか? 鷹沢はどっちがマシだ?」
正直に言ったほうが、マシだな。
偽 ることは、俺にはちょっと耐えられない。
大学の文化祭。
機会があれば光樹は喜んで俺に会いにきてくれる。
光樹と連れ立って歩いている際知り合いが光樹を気にしたときだけ、俺は光樹が付き合っている人間だと明かした。
そこから他にも光樹のことが伝わるだろう。
光樹が誠実そうな整った顔をしてるせいか、あからさまに変な顔をする奴はいなかった。
遠田の弟だと言うとみんなそっちに食いついてきて、たいして抵抗のないカミングアウトだった。
なんか、助かった。
カミングアウトしなければという緊張感が解けてきころ。
ラグビー部で出し物やってて、店番の時間が来た。
終わったら連絡すると光樹に告げ、別行動を取ろうとしたとき。
「がんばって」
光樹が自然に俺の腰を抱き寄せてきた。
俺は慌てて、腕で光樹の胸を押し返す。
すぐに光樹は俺から手を離した。
光樹は少しだけ、驚いた顔。
「悪い、人前だから」
俺、光樹を拒絶した?
違う、ただ人目を気にしただけ。
「俺もごめん」
光樹がさみしそうにあやまるから、胸が痛い。
なにか、言わないと。
だが、取り繕う言葉も時間もない。
光樹は俺の顔を見て、気を取り直すように小さく笑う。
「これから気をつけるから。ごめんね」
そして背を向け、来た道を戻っていった。
光樹が嫌だったわけじゃない。
だから光樹を避けた自分が、嫌すぎた。
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