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第11話
文化祭は土日開催で、例によって光樹がアパートに泊まりに来る。
気まずいが人目のある場所で弁解するのもはばかられて、ヘコんだ気分のまま飯を食って帰宅した。
ベッドに腰掛けると、光樹はほんの少し間を開けて隣に掛け、あやまってきた。
「ごめんなさい」
「いや、俺が悪い。カミングアウトしといて、人目気にしてるとか」
俺が俺じゃないところを他人に見せることが、嫌だった。
俺は自分の中の迷いを光樹に白状する。
小さい光樹に対しては、俺は俺でいられた。
色気出して絡んでくるわけじゃなかったから、人前で抱きつかれても抵抗がなかった。
でも今は、いや今も別に光樹は色気を出して絡んでるわけじゃないんだろう。
以前同様の愛情表現されても、俺が勝手にそこに色気を感じちゃって、光樹にすがろうとしてしまう。
年下の男にデレてる自分が俺の本性だと解釈されるのが、ただただ恥ずかしい。
「実際俺の本性なんだから、隠す必要ないんだろうけどさ」
「俺にはデレたとこ見せていいんだよね。外で俺が気をつければいい話だ」
光樹を避けたわけじゃない、誤解が解けるとさっそく光樹はこちらに身を乗り出して、ほほにキスをしてくる。
「ねぇ、デレたとこ見せて。俺の前でもまだ恥ずかしがってるでしょ」
あぁ、もう一つ困ってたことあったな。
小さい光樹とこの光樹を同一視できない問題。
恥ずかしがってるわけじゃなく、前の光樹に悪くて今を素直に受け入れられない。
「あのさ、今日は声劇やんないの?」
「どうしたの急に?」
話をそらしたが、脈絡がなさすぎた。
今の光樹が声劇をやってるところを見たら、前の光樹とちゃんと合致するかと思ったんだけど。
変なこと言ったから、光樹は俺の真意を探ろうと少し表情を暗くして俺を見据えてきた。
光樹が、こわい。
いや、こわいのは、光樹に嫌われること。
こわい顔されて当然な態度とってるんだけど、そんな顔で、見ないで欲しい。
いたたまれなさが最高潮に達して、俺は、こっちの件も白状した。
光樹の一部を受け入れられないでいる、難しい顔をした光樹が静かに口を開く。
「高一のころの俺と別れて」
即座に、それは無理だと思ってしまった。
俺を見上げて甘えてくる光樹を思い出す。
……俺、ダメじゃねーか。
光樹を忘れるのは光樹に悪いと思っていたが、光樹が光樹を忘れろって言ってんのに。
「別の人間だと思ってるんでしょ? 前の俺のほうが好きだったり……」
「今のほうが好きだから!」
かぶせるように、言い放つ。
そんなふうに、思われたくない。
「中身は同じだろ、年下なのにやたらしっかりしてていい声してて。今はさ、それに合った顔と身体がたぶん、俺の好みなんだ」
自分が自分でなくなるなんて、俺は今の光樹のほうが相当好きなんだと思う。
それを言っても今の光樹の前で不穏な態度を見せてしまっているから、光樹の表情は悲しげなままだ。
「俺今、春斗さんが、高一のころの俺に似た人のところに行っちゃうんじゃないかって、すごい不安」
いつもそんなにしゃべらず態度で示してくる光樹が、懸命に話してくる。
俺が離れていくことにおびえてる。
「前に、本当は抱かれたいのに俺を抱くって言ったの、高一の俺を抱こうとしたから?」
「ん。そうだな」
なんで憶えてるんだよ。
はぐらかしてもバレそうで、正直に答える。
「抱かれたいなら素直に言って。俺じゃない人見てる気がするのは、いやだから」
光樹が不満を述べることなんて、滅多にない。
俺に対して強く痛く想いを吐き出す光樹に、焦がれる。
「わかった。俺さ、今、光樹に抱かれたいとしか思えないんだ。ごめん」
光樹は唇を噛んで、目を細める。
感極まっているのか、でもどこかまだ悲しくも見える顔。
「あやまらなくていい」
ベッドに倒され、くちづけられる。
俺は望み通り、抱かれる側に転向した。
それ以降、光樹が少し、変わった。
俺を呼び捨てる許可を乞い、電話での会話に甘えた響きが減り、包み込むような雄々しさを見せる。
抱く側に完璧に転向して意識が変わったのか、俺が求めるものを示そうとしているのか。
一層、過去の光樹の姿から遠のいた。
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