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★僕の日常がゆっくりと壊れていく《兆し》がやってくるよ★
* * *
僕ら二人とバニラがクラスメイトだといっても、正確には常に一緒のルームで授業を受けているわけじゃない。
僕とミントにはない、とある特徴がバニラには出てくるからだ。それは、朝も昼も夜も関係なく突然訪れてしまうという。
朝も昼も夜も関係なく突然襲ってくる強烈な眠気という奇妙な特徴は、他のクラスメイトと常に一緒に授業を受けるというのはバニラにとって途徹もない【負担】となる――と判断した担当の先生は校長と理事長に相談した。
だから、バニラは僕らのクラスメイトとして登録はされているのだけれど授業中は別のルームにいるんだ。
そして、そんなどっちつかずともいえるクラスメイトのバニラとお昼御飯を共に食べるためミントを連れ立って彼のいる《X―Ⅲ》のルームまで迎えに行くのも僕の日常のうちのヒトコマだ。
「なあ……ジンジャー。あのさ、お前……嫌じゃねえの?」
「え……っ____何のこと?」
赤い絨毯がびっしりと敷き詰められた大理石の階段を登っている最中に、突然ミントから話しかけられて少しだけ驚きつつ尋ね返した。
今、この場には僕ら二人しかいないため少しの間――静寂に包まれてしまう。
「あのな……お前、あいつ――バニラの兄貴のことどう思ってんだよ?あいつ、いっつも馴れ馴れしくお前に触れてきやがるけど……まさか、付き合ってるわけじゃねえよな?」
「そ……っ……そ、そんな訳ないでしょ!?もう、ミントったら……いきなり、何言って……っ____そ、それより……バニラ……大丈夫かな?」
あまりの突拍子もないミントの言葉を聞いて、困惑し慌てふためきながら返す僕だったけれどミントの表情はとても真面目でそれに対しても驚きを隠せずに何とか今の話題から彼の興味を逸らそうと必死の抵抗を試みてみる。
しかし____、
「つーか……今はバニラのことは関係ないだろ。お前に対する俺の気持ち――知ってるくせに。案外、意地悪なんだな……お前って____」
「わ……っ____!?」
ドンッと勢いよく、石造りの冷たい壁に体を押し付けられて思いっきりたじろいでしまう。それは、あまりにもミントの態度が真面目なのも原因だった。
くろぶち眼鏡の奥の焦げ茶色の瞳が真っ直ぐに僕の瞳を見つめて勢いよく放たれた弓矢みたいに射ぬいてくる。
そして、それに同調しながら僕の心臓もドクン、ドクンとやかましく跳ね上がる。
もうすぐで、身を屈めたミントの唇が小刻みに震えている僕の唇に重なる――といったとき、予期せぬ出来事が起きた。
ガタンッ____
壁に掛けられている、大きめな額縁に収められた絵が床に落ちてしまったのだ。
ビクッと二人して同じ動作をあらわにしてしまった後、ミントがため息をついてから、落ちたそれを拾いに行く。
【罪と海と闇が響く三重奏】と題された、その絵は確か校長だか理事長だかが気にいって、壁に飾っているという不気味な絵だ。
ただ、黒く塗り潰されただけの面白みのない不気味な絵____。僕もミントも、おそらく他のクラスメイト達や教師もずっとそう思い込んでいたその絵の異変に最初に気付いたのはミントだった。
「おい、これ……この絵――何か変な仕掛けがあるぞ?ちょっと、こっち来てみろよ」
「だ……だめだよ、ミント――校長先生と理事長先生のお気に入りの絵を勝手に弄るなんて……っ……怒られちゃうってば!!」
などと言いつつも、僕は本当は心の片隅でホッとしていた。
それは、もちろんミントの興味が、僕とクルスさんのことから【黒く塗り潰しただけに見える絵】のことに染まったからだ。
(ミントはああ言うけれど、クルスさんは僕の大事な理解者だ――確かに、たまには馴れ馴れしいって思うこともあるけど……だからって失うわけにはいかないよ……それに、クルスさんに失礼なことをして僕から離れていっちゃったら……ママにも迷惑かけちゃうし……)
これ以上、ミントから僕とクルスさんのことについて追及されてしまうのも困ると思ったためハラハラしつつも彼のいる方へと駆けて行くのだった。
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