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★僕の日常がゆっくり壊れていく《兆し》がやってくるよ★

「お……おじさん、誰……っ____!?」 「はあ?今時の坊やは年上に対する口の聞き方も知らねえのかよ……ひっ……く……まあ、んなこたぁ、どうでもいい。問題はクソガキ、てめえがエディの息子だっつーことだ……」 このまま玄関で話すのも何だかなぁ――と思った僕は掃除の行き届いていないリビングへと変なおじさんを連れて行くことにした。 ちなみに、電気が止まっているせいで夕方の今になると薄暗いため手に懐中電灯を持っている。別に蝋燭の光でもいいんだ。ゆらゆら揺らめきを放って、とても綺麗だから。それに、こんなの――いつものことだしね。 見知らぬおじさんは、リビングに通されるなり手にした酒を浴びるように口にしながら乱暴なんてもんじゃなく下品な言葉を戸惑いをあらわにしている僕へ吐いてくる。 白いタンクトップシャツに、穴だらけのカーキ色のズボン――足元には壊れかけのサンダルといった身なりで手には酒ビンときたものだから相当に荒んだ生活をしているんじゃないかと思われる。 その中で、髭はきちんと剃られているし髪の毛もそれほどボウボウというわけじゃなく顔の造形自体は悪くはないのが特徴的なおじさんだなと感じた僕は思わずボーッと彼の容姿を観察してしまっていた。 「なんだよ……気色わりぃクソガキだな。まあ、とにかくだ……てめえの身の周りで最近、てめえの父親がいなくなったこと以外に変なこととか起きてねえか?」 「え……っ…………!?」 酒臭い息を放ってくる彼の問いかけを聞いて、僕は鳩が豆鉄砲くらったみたいな間抜けな表情を浮かべながら面食らってしまった。 全く心当たりがない____。 ママはパパがいなくなってから、ずっと怒ったり泣いたりと情緒不安定だ。しいて言うならクルスさんのお店で働いたことくらいだけれど、それを《変なこと》でひとくくりにするのもおかしな話だろう。 僕は相変わらずミントやバニラと囲まれながら楽しく学校生活を送っている。しいて言うなら今のこの状況が、いつもとは違う《変なこと》なのだけれどもグデングデンに酔っぱらっている彼にそれを話したら怒られかねないしそれほど意味もなさそうだ。 パン屋で働くクルスさんや彼の父である《玉子のおじさん》も変わりない――と思う。 お店の奥で引っ込んでいる玉子のおじさんはともかくとして、少なくともクルスさんに変なことなんて起きてない筈だ。もし起きていたとしたら、彼は僕に言ってくれるに違いないから。 ミントがやきもち妬きでぶっきらぼうなのはいつものことだし、バニラが一日のほとんどを寝て過ごしているのも――いつものことだ。 「へ、変なことなんて……ないよ――変なことなんて……起きるわけがないんだ……だって、僕の日常は____」 「変わらない……ってか____へっ……馬鹿馬鹿しい。日常がずっと変わらないって、そういや……てめえの父親であるエディもおんなじようなこと昔に言ってたっけな……下らねえ。つまらない日常を送ってる奴が、悲劇のヒロインぶって都合のいい言い訳を口にしてるようにしか聞こえねえぜ……」 ふと、気づくと――目の前にいる変なおじさんの勝手な言い分に怒りがフツフツと涌き上がったせいか眉間に皺を寄せつつテーブルを両手で思いっきり叩いていた。 痛みがそれほどでもなかったのは、いつも情緒不安定なママがテーブルにまで掃除が行き届かなかったせいで雑誌やら何やらが埋め尽くされているためだった。 無意識のうちに涙が溢れていたのに気づいてハッと我にかえった僕。 自分の言いたいことだけを好き勝手に言い放っていた筈の変なおじさんは先ほどとはうってかわって目を丸くしつつ驚きをあらわにしていたが、ふいにニヤリと意地悪い笑みを浮かべたかと思うとグイッと僕の体を引き寄せてそのまま外へと連れ出すのだった。 まだ、ママに置き手紙を書いていないのに____。

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