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★僕の日常がゆっくりと壊れて新たな世界に招かれるよ★

* 「杏奈……いや、情緒不安定なお前のママは…… なのか?」 「ママは……まだ大丈夫だよ。ところで、ここ……何処なの?おじさんの知ってるところ?」 その後、僕は半ば強引に名前すら名乗らない変なおじさんに連れて来られて大きな建物の中に入っていった。 しつこく「ここは何処?」と聞いているうちに、乱暴なおじさんは面倒臭そうに頭をガシガシとかきながら、生臭いお魚を加工していた廃工場だと教えてくれた。 もしも、今が明るい昼時でそんな光景を誰かに目撃されていたとしたら《誘拐》と思われかねないだろう。 でも、幸いなことに今は真っ暗な夜に近づいている最中の夕暮れ時で誰かに見られている訳じゃなかった。 それに、家に来た時よりも変なおじさんの酔いはマシになっていて、僕に対しての口振りも随分と優しいものになっていたためホッと胸を撫で下ろした。 「なあ……お前____俺のこと、覚えてねえか?小さい頃に、何度か遊びに来たんだがな……昔は、オシメだって変えてやってたんだぞ」 「…………んー、わかんない」 「タイム……俺の名前はタイムだ。それと、お前の父であるエディとは小学校ん時の幼なじみ……いや、それはちょっと違うか。まあ、とにかく……お前にはさっき話したこととは別に、聞きたいことがあるんだ」 それを聞いて、僕は少しムッとしてしまう。 今、目の前にいてパイプ椅子に座っているタイムというおじさんは、さっきからずっと僕に一方的に知りたいことを聞いてばっかりで、僕の問いかけに対しては答えてくれようともしないからだ。 「おじさん、さっきから……ずっと僕の話を聞いてくれないよね。僕だって、おじさんに聞きたいことがあるのに……」 と、むくれながら呟いたら予想に反して彼はバツの悪そうな表情を浮かべつつも特に怒ってきたりはしなかった。てっきり、ママが不安定な時と同じように「子供のくせに生意気なことを言うんじゃない」って素っ気な言われるかと思ったせいで鳩が豆鉄砲をくらったかのような間抜けな顔をしてしまう。 「何だよ……聞きたいことって――」 「おじさんも……毎日、悪夢をみるの?」 「あ………悪夢……だって……っ____!?」 と、さっきまでパイプ椅子に座りながら手にしていた《影絵ウサギのラベル》がついたお酒を再び浴びるように飲んでいたタイムおじさんが急に勢いよく立ち上がる。 異変が起きたのは、それとほぼ同時のことだ。 唐突に、真上から――人が落ちてきた。 おそらく、天井の電灯に引っかかっていたに違いないんだろうけれども、それにしてもあまりにも唐突で僕もタイムおじさんも呆気にとられるばかり。 「た……まごの____おじさん……?」 これは、僕の声。 「ロ……ズ……マリー……?ローズマリー____お前、どうして……っ____まさか、お前……ハンプティ・ダンプティ……だったのか?」 これは、タイムおじさんの声。 ハンプティ・ダンプティ――《たまごのおじさん》は、吊り下げ型の電灯に引っかかっていた。 だけど、地上へと真っ逆さまに落ちて僕らの前に現れた。 口の中に、たまごをいっぱい詰め込んで――僕らの前に現れたんだ。 哀れ、《たまごのおじさん》は窒息死____。 口の中の、ひときわ大きな卵には《醒めない夢》って血文字が書かれてた。 たくさんのパトカーの音を耳にしつつも、僕らはそこから離れて元の世界へと戻って行く。 タイムおじさんは、かつて《たまごのおじさん》は小学校の時のクラスメイトだと言っていた。よくつるんだグループにはいなかったけれど、よく遠くから自分達を眺めていた子だって泣きながら教えてくれた。 そして、また――悪夢が始まるんだ。

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