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★ いつもの公園でのひととき ★

* パパの過去の話なんて、初めて聞いた。 その中に出てきた、アレンとジャックっていう人たち____。 かつてパパといっしょに過ごしてきた友達(本当に友達なんだよね?)がいるっていうことも初めて聞いたんだ。 あの後、タイムというおじさんは「お前のパパは弱虫でいじめられっこだったからアレンとジャック以外に良くも悪くもつるんでた奴なんて俺ら4人しかいない……親しいかは別としてな」って言ってた。 そうなると、僕のパパはアレンっていう人のパパか、もしくはジャックっていう人のパパ――どっちかの命を奪っちゃったことになる。 エレメンタリースクール時代のお話はしてくれなかったのに、かつて友だちのパパの命を(どんな事情であれ)奪ってしまったことは何故か自ら僕に教えていたパパ____。 いったい、どうしてなんだろう。 まあ、パパが教えてくれていても、教えてくれていなくても――どちらにしろ近所の人たちがヒソヒソと噂して知ることになっていたんだろうけど____。 熟したオレンジみたいな色に染まりかけている空の下で、僕は馴染みのある公園のブランコに腰かけてゆらゆら体を揺らしながら物思いにふける。 ぐずぐずしてたら、空はあっという闇に染まる時間になっちゃうのに____。 そうこうしているうちに、ふとローズマリーという今はもうこの世にいないおじさんのことを思い出してしまう。 『ローズマリーの奴も、アレンのことを気にかけてた。ただ、エディとは違って……悪意的にだ。ローズマリーは、ずっとアレンに対して憎しみに近い感情を抱いてた。簡単に言うと嫌っていたってことだな。ああ、いや……つまり、だ――俺が言いたいのは……言いたいのはな……ローズマリーがあんなことになっちまったのも……お前のパパの姿が消えちまったのも、全部あいつらが引きおこしていることってことだ』 おじさんの声が、震えていたのをちょっと時間が経ってしまった今でも覚えてる。 『で、でも……っ……おじさんが言っているのはおかしいよ。だって、アレンって人とジャックっていう人は……もう天国に行っちゃったんでしょ?それなら、どうやってパパをどこかへ連れていっちゃったり、ローズマリーのおじさんに……っ____あんな酷いことができたの?』 いつの間にか泣いてしまっていたせいで、少し早口になってしまった僕に何かを伝えたそうな表情を浮かべながら口を開きかけたタイムおじさんだったけれど、けっきょくは何も教えてはくれなかった。 ただ、タイムおじさんは僕の目にたまった涙を拭くと、そのまま廃工場から出て行ってしまった。 * だから僕は今、辛いことがあった時とか気分のモヤモヤが晴れない時に、いつも訪れる公園のブランコにゆらゆら揺られて、どうにもならないことを考えている。 ゆらゆらと規則的に揺れ続けながら、どんどん考えているうちに何も分からなくなって、僕はブランコを再びこぎ出すと真っ青な空に向かってそのまま飛んでいってしまいそうなくらいに勢いよくそこから離れる。 ザッ____ 地面に着地したとたんに、周りに土煙が舞った。辺りから視線を感じてしまう。 少しだけ気恥ずかしさを感じながらも、そっちを見てみるとブランコから少し離れたところにある砂場から何人かの子ども達が僕の方を見ているのが分かった。 男の子が4人と、それに女の子が1人――こっちを見ているのが分かって、僕は慌てて目線を下に向けて土煙で汚れたズボンの膝あたりをパンパンと何度か手で払う。 砂場の近くでボール遊びをしていた最中の男の子たちは、投げ合う手を止めてると、ブランコから勢いよく飛び着地した僕の方を憧れのこもった表情で見つめてくれていた。 ただ、男の子たちはそうしてくれてはいたけれど砂場の外側に青と白のチェック柄のシートに座りながら1人でお人形遊びをしている女の子だけは、ただひたすら不思議そうな――僅かに驚きのこもった表情を浮かべて男の子たちと同じように手を止めつつ僕の方を見ている。 その女の子の様子に気付いたとたんに、何でかは分からないけれど、とてつもなく恥ずかしくなってしまった僕はそれを誤魔化すために、ちょうど授業が終わった頃でぼちぼち皆が帰りかけているであろうエレメンタリースクールのある方角へと顔を向ける。 この公園はエレメンタリースクールや家がある場所よりも少し高台にあるから、エレメンタリースクールの真っ白な建物がよく見える。 そして、ふとミントとバニラも授業を終えた頃だということに気づく。ほぼ1日中といっていいくらい強すぎる眠気に支配されているバニラはともかくとして、ミントはきっとこの公園に、いつもみたいに来るに違いない。 学校帰りにこの公園にほぼ毎日寄るのはミントも同じなんだ。公園に寄らないのはよっぽど大事な用事がある時か、もしくは外で遊べないくらいに悪天候な時だけだ。 (学校からここからまでは、そんなに時間がかからない――ミントはいつもこの砂場を嫌って逆方向にある噴水広場を気にいっているから……そろそろ、ここを離れよう……そこで待ってれば……きっと来るはず____) すると、ついさっきまで驚きのこもった不思議そうな表情を浮かべてこちらを見ていた女の子が、いつの間にやらこっちに向かって駆けてきていた。 ポンッ……トッ…………トンッ____!! 僕の方に向かって、まっすぐにボールが飛んできて僕の前で止まった。 咄嗟にそれを受け止めると、砂場にいる4人の男の子とは別に、すく近くでボール遊びをしていた男の子たちがいることに気がついた。 女の子は、お人形遊びをいったん止めると、ボールがなくなって困惑しているその子たちのために僕の方へと駆けてきたみたい。 仲間思いの優しい女の子は、こっちへ飛んでしまったボールを取りにきたんだ。 そこで、ちらりとボールが飛んできた方を見てみる。 ボールを取りに来るのを躊躇している男の子たちに加えて、穏やかそうな表情をしたパパよりも少しばかり若そうな男の人がボールが飛んでいってしまって困っているその子たちの頭を撫でたり優しく声かけをしてなだめているのが見える。 「ねえ、ねえ……おにいちゃん。これ、あげる。これはね、リーニャがつんできたの……きれいでしょ?だから、そのボール――返して?」 舌ったらずな口調で、どこかソワソワしながらも周りに響きわたるくらいに元気な声で、その子は話してきた。 ふわふわとした白いフリル付きのスカートが特徴的な可愛らしい洋服を着ていて、その上から水色のスモックをつけているリーニャという名の女の子は、僕に紫色のライラックの花を一輪くれる。 そして、そのままボールを受け取ってるとウサギみたいに軽やかな足取りで4人の男の子と穏やかに微笑んでいるパパと同じ年くらいの男の人がいるところへと戻っていった。 さてと、僕もミントを待つために――噴水広場へ行かなくちゃ。 ミントとは、バニラぬきで話したいことがあるから____。

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