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奇妙な夢に出てくる、キミは誰?
テレビの中で、見慣れた男の人がマイクを片手にいつもと同じ曲を歌っている。
《Ash and dreams》____。
このひとときこそが、この寂しくて冷たい家の中で、たったひとつの僕のお楽しみ____。
この、ひとときがあるからこそ――僕はミントもバニラもダディとママがいない孤独にだって耐えていけているんだと思う。
テレビから流れ続けて腹の底から絞りだしたといわんばかりの迫力がある歌声は、孤独と寂しさで震えることしかできない僕に向かって力をみなぎらせてくれているような――そんな気がして、とても心地がいいんだ。
とにかくテレビから、その曲が流れ出した途端に嫌な気持ちなんて、すぐにどこかへと飛んでいったような気になる。
今まで悩んでいたのが嘘みたいに、いつの間にか、すーっと心の中から消えているから、とっても不思議。
僕の目は、ぐにゃりぐにゃりと蜃気楼みたいに揺れ続けているテレビ画面に釘付けになっている。
その心地よさは、ミントとバニラと一緒に学校にいる時でも、僕の気持ちを理解してくれる親切なクルスさんと一緒にママの働くパン屋で過ごしている時でも、感じたことがないような不思議な心地よい気分に包まれていっちゃった。
◇ ◇ ◇
「え………っ____!?」
突如として、目を覚ます。
いつの間に、あの奇妙な夢の中へきちゃってたんだろう。
だって、僕は嫌な現実を忘れさせてくれる大好きな歌声に聞き惚れながらテレビ画面に釘付けになっていた筈なのに____。
(おかしい……こんなのは、初めてだ――今まであの奇妙な夢を見ていたのは夜だけだったのに……それに____)
それに、また――あの金髪の男の子がいる。
その金髪碧眼の男の子は波打ち際で体を横たわらせつつ、身動きすら碌にできない僕の前に何度も現れる。
もちろん、この奇妙な夢の中だけだけれど。
『……さ…………な____………ィ』
これは、夢の中にいる僕の見間違いなんだろうか。あるいは、頭の中が混乱してしまっえいる僕の聞き間違い――なのかな。
目の前にいる存在が本物かなんて分からないのだけれど、とにかく天使みたいな金髪碧眼の男の子は何事かを僕へ伝えようとしていることだけは分かる。
(て……っ……天使みたいな……男の子、だって?)
(ちょうど真後ろにギラギラと光輝く白銀の太陽が浮かんでるせいで、あの子の顔も服装だって真っ暗なのに――ましてや美術館に飾ってある絵みたいに白い羽根が背中から生えてるわけでもないのに、いったい何でなんだろう)
何気なく見上げた空は、僕らが暮らしている世界とは大分違って、異様な感じだ。まるで、何個かの絵の具をぐちゃぐちゃと混ぜて渦を巻いたかのような――そんな、不気味な空。
(青、赤、黄緑…………何だか、これって____)
思うところあって少し考え込んでしまった僕だったけれど、それよりも大きな謎が僕の頭を支配してくる。
どうして目の前にいる男の子が天使みたいに可愛らしい男の子だって分かっちゃったのか、だ。
僕は、その男の子のことなんて奇妙な夢の中でしか知らない筈なのに。
今まで見てきた、どの夢の状況でも――その子は決して顔を見せてはくれなかった筈なのに。
もう、いいや____
何だか、色々と疲れちゃった____。
*
「あ…………コンナ、トコロに……ヒト、マル、ヒト、ゴウ……いた____ノンキ、なもんだ」
「は、やく……は、やく…………もど、す……。じゃ、ないと……オレ、ら……きけん…………」
まさか、すっかり再び意識を手放してしまったチェルシャ(僕のこと)を、引き連りながら何処か別の場所へ戻ろうとしている《得たいの知れない存在》がいるだなんて____。
そんなこと、ぶっつりと糸が切れてしまった人形のようになって力尽きている僕には知る由なんてなかった。
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