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奇怪なテレビと僕はオルゴール人形と一夜を共にする
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『ザ……ッ……ザザァー……』
意識がボンヤリと戻りかけてきた僕の耳を刺激してきたのは、奇妙な夢でよく聞く砂浜を歩く時に耳にする音____。
だから、てっきり――まだ夢の中にいるんだと思い込んでいた。
意識が戻りかけていたとはいえ、それが間違っていると判断するには早過ぎたからだ。
ここが奇妙な夢の中ではなく、現実の自分の家だと気付けたのは、まさに奇妙な夢の世界にいく前につけていた《テレビ》のおかげだった。
綺麗な女性アナウンサーが、淡々とした声色で何事かを読み上げている。
それは、ある町で、また新たに子ども達が何者かによって連れ去られてしまったという悲惨な出来事____。
それなのに、僕のママはお家にはいてくれない。
このまま聞いているのは、流石に気が引けて咄嗟にテレビを消してしまう。
『ジンジャー、それは仕方がないことさ。杏奈さんだって、好きでウチの店に来て仕事漬けの日々を過ごしているわけじゃない。可愛そうな目に合ってる、お前の父さん……エディさんの代わりにお前を守ろうと必死なんだよ____外の世界は怖いことだらけだからね』
ふと、クルスさんの優しい声色を思い出す。
「ねえ、クルスさん。本当に外の世界には――怖いものしかないのかな?」
思わず、ポツリと呟いてしまう。
もちろん散らかり気味の、薄暗く小さな部屋の中には僕ひとりしかいない。だから、何かの声が聞こえてきたわけでも、おかしな音が聞こえてきたわけでもない。
でも、僕は確かにこの目で見たんだ。
砂嵐状態となりノイズを走らせているテレビ画面に、急にクモの巣みたいにヒビが入っていって、その割れ目から僕の方を覗いている何個もの青い目が____。
ギョロギョロと左右を向きながら、やがて真っ直ぐに僕の目を見据えてくる硝子みたいに綺麗な青い目玉が____。
咄嗟に、テーブルの上に置いてあったダディが作ってくれた手作りの雫型のオルゴールをテレビ画面に向かって投げてしまっていたことに気が付いてサーッと血の気が引いてしまう。
(僕、どうして……こんなことを……っ____)
それは、ダディが僕のために作ってくれた大事なオルゴールで《サーカスの踊り子》をテーマにしているものだ。
慌てて、床に転がったそれを拾い上げる。
そのオルゴールは、ガラスで作られたものじゃなかったから幸いなことに割れることはなかったし、蓋を開くと中央に黒いチュチュドレスを着た踊り子の人形が出てきて問題なく音楽に合わせて流れるような動きで移動する。
やがて、踊り子の人形は片足を上げたポーズのまま天井から垂れさがるブランコの方へと優雅に移動していき、確かに僕の目を見た。
【ママ】____。
そう思った途端、踊り子の人形はピタリと動くのを止めた。そして、ふいに消えていたはずのテレビがザァァーという砂嵐と共に再びつくと、一瞬だけど画面に誰かの大きな影が映った気がして思わずオルゴールへと目を落としてしまった。
いつの間にか____、
【踊り子の人形】の首に空中ブランコの紐が巻き付いていて、あろうことか足元にコロコロと恍惚の表情を浮かべる小さな首だけが転がってきて、僕は急いで自分の部屋へと駆け込み、ベットでガタガタと身を震わせて一夜を過ごすことになるのだった。
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