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番外編『精霊国の双紅蓮』後編 ※

     時間は矢のように過ぎていった。このひと月、ルドラと共に勉強や訓練に励み、ボクでも少しは強くなれたと思う。それはやっぱりルドラのお陰だった。  ボクは説明された理論こそ頭に入っているけれど、それを実際の戦闘で利用することがあまりできない。何をするにも攻撃ができなさ過ぎて、相手を倒すところまでいかないのだ。  一方で、ルドラは知識こそないが、膂力と魔力はずば抜けていて、クラスの中でもあっという間に上位にのし上がっていくほどの才能を持っていた。  ボクはそんなルドラに新しい知識や、騎士としてやっていく為の礼儀作法を教え込み、ルドラからは身体の動かし方を教わった。そうして少しずつ、ボクは動けるようになっていった。  ただ剣を打ち合うとどうしても力負けしてしまうので、ボクは自分の思う通りに動けない。一方でルドラは力任せに相手を打ち負かそうとするところがある。お互いの能力を足して半分にしたいと何度も思った。    このひと月で最も痛感したのは、ボクが相手を傷付ける攻撃魔法をそもそも使うことができないということだ。これはもう、ボクの魂がそういう形なのだろうと認めるしかなかった。火は魔法の中でも攻撃的な基本性質を持っていて、大抵の火の使い手は大小はあれど相手を攻撃して自分の身を守る。  しかしボクはこと攻撃となると途端にさっぱり魔法ができなくなってしまう。自分が騎士学校で殆ど魔法を使う事ができないのは、こういう理由だったらしい。火はその性質の為に、防御よりも何よりもまず攻撃を教え込まれる。ボクはその段階で躓いていたのだ。  友人もおらずずっと一人きりで、教師には兄様からの圧力がかかっていたのもあり、常に諦められ気味だったので、そんなことにさえ気付けなかった。悔しかった。ボクの今年の春から夏にかけては何だったのだろうか。あんな屈辱に耐えて耐えて、一人で得たものは大したものではなかった。    ルドラが来てからは、学校も変わった。兄様はまだボクに絡んでくることもあるけれど、ルドラが授業中に、同じ一年生で最も強いと言われていた奴を叩きのめしてからは、ボクに手を出そうとする人間も減った。懲りずに寄ってくる奴も、一緒にいるルドラがひと睨みすれば退散する。  だから……そんなボクが、ルドラに依存するのに……このひと月があれば、時間は十分すぎるほどだった。   「やっぱりさ……アレビナは、サポートの方が向いてると思う」   「サポートねぇ。何度も言うけど、火はそういうのに向いてないよ」   「アレビナは目が良いし、頭も良いし、反射神経もあるから、何かできると思うんだけどなァ。オレよりずっと動けるのに」   「……けど、火の魔法は」   「補助に向いてないんだろ?分かってるよ。でもオマエの魂に合った使い方は絶対にあるはずなんだ」    こういうことを真剣な顔で言われる度、ボクの鼓動はどうしても速くなる。相手には……叶わない可能性が高いとはいえ、想い人がいるというのに。    学年上位のルドラは、訓練試合に参加する権利は得たものの、ペアに指名したボクが余りにも弱すぎるので、周りから優勝はおろか予選突破も無理だと言われていた。試合には当然アレクス兄様も出る。三年生で最も優秀な人だ。大会は学年が関係ないので、一年生はそもそも不利だった。  しかし兄様を始めとする上級生たちを倒さなければ、優勝はできない。    大会の日が近づくと、教師からエドワード兄様と至純様が見学に来られること、優勝した人間にはエドワード兄様から直々に講評を戴けると説明された。それを聞いて、ボク達はいよいよ閑吟様の言葉を信じて目標にするようになった。  ボクは自分の為というよりは……ルドラの為に何かしてあげたかった。    そんな思いとは裏腹に、結局当日まで大したことは出来なかった。確かにボクは魔力の性質的にも治癒などの補助が向いているらしかったけれど、戦闘中にできる傷に対して、相手にじっくり触れて魔力を流さなければならない治癒はできない。  予選はルドラの力でなんとか勝ち進んだものの、午後からの本戦ではそうもいかないだろう。それに本戦はエドワード兄様と至純様も見に来るのだ。  補助をすると決めたボクだったけれど、やりたい事に魔法が追い付かない。ルドラの邪魔をしないようにしなければと思うと、どうしても後手に回ってしまう。それに……補助と言っても今は火の粉を散らして相手の意識を逸らす事くらいしかできない。自分でも無様な戦い方だと分かる。こんなものを、エドワード兄様と……ルドラの想い人に見せる訳にはいかない。    ボクはとてもじゃないが昼食なんて喉を通らず、ルドラに適当な理由をつけて一人で復習をしていた。人気の少ない校舎裏で、剣術の基本の型をおさらいする。ボクには長剣は扱えなかったので、訓練用に刃の潰された短めの剣を振るう。  小柄なのですばしっこくはある。反応もできる。でもボクが逃げ回ったところで、ルドラの負担は減らない。ボクが相手を倒せないにしても、逃げたり身を守っている間に、もう少しくらいはルドラの手助けができたらいいのに。    温まった体が冷えてしまわないよう体を動かし続けていると、不意に背後から声をかけられた。   「無駄な努力をよくもそこまで頑張っているな、アレビナ」   「あ、アレクス兄様……?どうしてこんなところへ?」    ボクは尋ねながらも背筋に冷たい汗をかいていた。兄様が背後に引き連れているのは火属性の人間ばかりで……見覚えのある面々に、恐ろしくなって後退る。   「最近のお前は、中々目に余る。まさか俺から本気で逃げようとしているのか?それでフレディアル家が……お祖母様が納得するとでも?分かってるだろう、アレビナ。お前は俺のそばで生きるのが一番いいと。そもそもこの学校への入学も、最終的に俺の為だからと許可が出たのを……忘れてるんじゃないだろうな」   「ボクは……兄様の魔力器として生きるつもりはありません」   「はぁ……これもあの田舎者の影響か……毎晩可愛がってもらって情でも湧いたか。そういえば聞いたよ。お前は最近こいつ等にも魔力を分けていないらしいな。そんなにあいつが気に入ったのか?」    兄様がゆっくりと距離を詰め、人気のない校舎裏へボクを追い詰める。手首を掴まれて、その力にゾッとした。   「痛っ……痛いです、兄様。ボクとルドラは、そんな関係では」   「……また、そうやって……すぐ痛い、痛いと喚く。田舎者にくれてやっていないのであれば、最近は全くご無沙汰だということか?そんなことでは、俺の魔力器としてやっていけないぞ」   「だ、だからボクは、魔力器には……あっ!」   「……ちょうど午後からの試合の為に、魔力を補充したいと思っていたところだ」    ボクが尚も逃れようとすると、兄様は不機嫌そうに付け足した。   「お前が大人しくしていれば、お前たちに当たる他の連中に手加減しろと言ってやってもいい。お前たちが何故そこまでして勝ち上がろうとしているのかは知りたくもないが……少しでも可能性を上げたいだろう?まあどうせ俺たちには勝てないだろうが、少なくとも決勝には行けるようにしてやる」    それを聞いたボクの抵抗が弱まったのを見て、兄様は満足そうに笑った。   「じゃあ行こうかアレビナ。大人しくしていれば、そう痛くはしない」    ……兄様は嘘つきだ。    近くの用具倉庫に連れ込まれ、ボクは運動服の上を脱ぐように強要された。  痛くしないと言われたが、当然のように刃物を取り出され、腕や背中の皮膚を薄く裂かれる。薄っすらと血が滲むそこに周り中の男たちから吸い付かれてボクは痛みと嫌悪に悲鳴を上げた。   「い、アッぁあっ!」   「お前も試合があるから……最後まではしないでおいてやるよ。これだけ人数がいるし、血から奪うのが一番早いだろ」   「うぅ……兄様……もう、止めてください……こんなことをしても、ボクは」   「まだそんなことを……一体いつになったら、魔力器としての自覚ができる?こいつらにわざわざお前を貸してやったりもしたというのに……ひ弱なお前は、俺の元にいれば将来の心配をしなくていい。お祖母様もそれでようやく納得したんだ。だからずっと俺の元にいろ、アレビナ」    そう言いながら兄様が首筋の傷に食らいつき、ボクの血液ごと魔力を啜った。魔力を放出する快感と、傷を吸われる痛みに涙が溢れる。  この狂った状況を、誰か止めて欲しい。    そう思っていると、不意に倉庫の扉が開く。   「アレビナ!」   「る、ルドラ……」   「……またお前か」    兄様が口元を拭いながらゆっくりと振り向く。ルドラは倉庫内の惨状を見て露骨に顔を顰めた。   「お前ら、正気じゃねェだろ……」   「こいつは俺の魔力器だ。どう扱おうと俺の勝手だろう」    兄様のその言葉を聞いたルドラは、頭痛を堪えるように額に手を当てた。   「まさかオレも、こんな風に見えてたのか……?」    そんなようなことを呟きながら、ルドラは片手をゆらりと持ち上げると、倉庫内に鋭い火槍を幾つも放った。当然ルドラほどの人間がそんな事をすれば、防護魔法が掛かっているとはいえ倉庫は燃えてしまう。周りも流石に驚いたようだった。   「早く出て行け。今のを見て分かっただろう。いくら火属性のお前らだって、オレが本気で燃やしたら消し炭になるぞ」    ルドラは不機嫌そうに前髪をかき上げながらそう言うと、更に火球を幾つも宙に浮かべた。  兄様の取り巻きは慌てて倉庫から飛び出していく。腰の抜けたボクは体の支えがいなくなって、その場にへたり込んだ。兄様が舌打ちをしてボクを一瞥する。   「……アレビナ。お前は俺から逃げられない。よく覚えておけ。こんな田舎者に心を許したところで、こいつにお前を救い出すことはできない。分かってるだろう」    面倒そうにため息をつくと、兄様も倉庫から出て行った。  ボクは背後で燃え盛る炎を見て首を傾げる。   「……熱く、ない……」   「まァもう少し待ってろ。あいつらが離れるまで」    そう言ってルドラが入り口から顔を出し、外を伺う。ルドラは暫くすると扉を閉め、炎をひと睨みして消してしまった。ボクはそれを見て驚愕する。何も燃えていないし、炭化した場所もない。ボクはルドラを見詰めた。いくらなんでも、一年生にしては炎の扱いが上手すぎる。   「似たようなこと、オマエの従兄弟にやられたことあんだよ。それから……こっそり練習してた」    ルドラはそう言うと、ボクの隣に座った。   「あんま得意じゃねェけど、オレが治癒してやろうか」    自分で、と出かかった言葉を飲み込む。代わりにゆっくりと頷いた。確かに今は自力で完治までできるか怪しいほど魔力が減ってしまっているし……それに不思議と、ルドラから注がれるなら痛くても良いと思えていた。  ルドラがボクの手を取る。彼はものすごく気を遣ってくれていて、共同生活の中でも不意に魔力が流れたりすることはなかった。  だからボクは、今この瞬間に、初めてルドラの色を知った。   「あ……」    するりと、なんの摩擦もなくルドラの魔力が身体に入り込む。ボクの中の魔力を生み出す部分が呼応して、ルドラと同じ濃さになろうと、魔力がざわめく。触れている部分からじわりと快感が滲み出るようで、ボクは指先がびくりと震えるのを止められなかった。  ボクがルドラを見上げると、ルドラも珍しく驚いたようにボクを見ていた。心臓の音がうるさい。  ……頭の中で声がする。  その色がもっと欲しい。  ルドラが欲しい。  きっと相手も同じ気持ちだ。  分かる。  伝わっている。  だってボク達は――……  気が付くと、本能のまま唇を重ねていた。   「ん……ッ!」    お互いの魔力が行き交う度、ボクの傷付いた場所に魔力と同じ色の赤い燐光が散って、傷が塞がっていく。紛れも無く半身になれる者同士の治癒効果だった。  ただのキスなのに、気持ち良さに脳髄が痺れてゾクゾクする。このまま完全に染まってしまえたら、どれ程いいだろう。   「……ルドラ……」    力が抜けてつい凭れ掛かると、ルドラが深く息を吐いた。   「……そうか……オレの半身は、ここにいたのか」    音は無かったけれど、ルドラの口元が至純様の名前を呼ぶのが見えた。フィー。いかにも親密そうな、短い愛称。  ボクは堪らず身体を離した。意外とすんなり離してもらえる。それも無性に悲しかったが、ボクは首を左右に振ってその気持ちを払った。  そうだ、ボクじゃだめだ。   「アレビナ?」   「行こう、ルドラ。優勝するんだろ?至純様と、話したいんだよな」   「でも、オマエ……」   「ボクはもう大丈夫」    落ちていた服を拾って汚れを払ってみる。……やっぱり一度洗った方がいいかもしれない。そう思っていると、ルドラがボクに自分の上着を掛けてくれた。 「あ……ルドラ……寒くないの?」   「誰に向かって言ってんだよ」    上着はボクにはかなり大きく、肩からずり落ちそうになったが、ルドラがボタンを留めてくれた。そうされると、袖を出さなくともすっぽりと首元から尻の方まで隠れてしまう。ボクは上着の下で汚れた服を丸め、抱え込んだ。    外に出ると、先程逃げた何人かが教師を連れて来るところだった。兄様はいないようだけど……   「アイツが火をつけたんですよ!」    そんな声が聞こえる。ルドラはボクに小声で話を合わせろと耳打ちしてきた。   「ルドラ・ノルニだったか?お前が火事を起こしたと……」   「……一体、何の話ですか?」    ルドラがそう言いながら倉庫を振り返る。ボクも首を傾げてみせた。   「…………ちょっと待ってろ。おいお前ら!来い」   「は、はい!……あれ?」    倉庫を覗き込むが、何処にもなんの跡もない。教師は呆れたようにため息をついた。   「お前ら……この大会の最中に何でこういうくだらん嘘をつくんだ?」   「う、嘘じゃ……確かに燃えて……」   「じゃあ聞くが、お前らより年下で……しかも庶民の転入生である彼が、先輩に気付かれず火事に見せかけて火を操ったっていうのか?なんの痕跡も残さずに?」   「………………」  教師の言葉に上級生達は押し黙り、教師は一度ボクたちを見るともう行っていいと手を振る。ボクたちはそれを横目に見ながらそそくさと一度寮へ戻った。  予選が早く終わったのと、午後の本戦は騎士科から始まり、魔導騎士科の出番はそれが終わってからなので、ボクは軽く身体を拭いて着替えることをルドラに勧められた。   「こういうときは水の奴らが羨ましいよな」    ルドラが声を掛けてくるが、ボクは上手く笑う事が出来なかった。桶に貰ってきた水を適温に温め、身体を拭く。拭きながら確かめて見たが、不思議と綺麗に傷は消え失せていた。   「……アレビナ?」   「あっ……ご、ごめん。なんだって?」   「いや……背中、オレがやろうか」   「う……うん……じゃあ……」    一度手拭いを湯で洗って手渡すと、ルドラはボクの背中を丁寧に拭いてくれる。力が強いくせに、いつも不思議と優しい力加減だった。  あ……あの華奢な至純様に、こういうことを……していたんだろうか?そんな嫌な想像がどんどん湧き出てきて、ボクは一人で苦い顔になった。  俯いて自分の足元を眺めていると、不意にルドラがボクの項を撫でた。   「ひゃっ!な、なに!?」   「あ、悪ィ……オマエ、髪短めなのに……なんかココだけ、切り口が……」    ボクはそう言われて、ああ、と頷いた。   「前は後ろ髪が長くて……編み込めるくらいあったんだ。それで、一つにまとめてたんだけど……」    ボクも自分の項に手をやった。明らかに粗雑な切り口。   「ボクがああいう事を……されるとき、都合良く引っ張られたりするから……嫌になって」    それで、適当にナイフで根元から切った。ボクが告げると、ルドラが項を撫でるボクの手に指を絡めてきた。思わずこちらの手がびくりと反応してしまう。   「っ……ルドラ……?」   「……もう、そういう事はさせねェよ」   「な、何を言って……ルドラは、至純様が好きなんだろ?」    思わず口走って、ハッと口を手で覆った。ルドラがそんなボクを振り向かせ、手拭いを桶に放る。お湯が跳ねて床に飛び散ったが、ルドラが一瞥すると瞬く間に水滴は蒸発してしまった。  ルドラはそこからゆっくりとボクに視線を向ける。   「……ひと月あったんだぞ?さすがにもう、割と吹っ切れてる。それにこっちに来るまでに……ある程度覚悟してたからな。そう言ったろ」   「ルドラ……じゃあ何で、さっき名前を……」   「ハァ……実はフィーには、かなり酷いことをしていて……だからそもそも望みはなかった。最初から分かってたことだ。だからこうなった今、改めて謝らないとなって思って……」   「さ、最初から……?じゃあなんで、至純様を追い掛けて王都まで来たんだよ……」    ボクは肩に置かれたルドラの手を払って、ベッドに腰掛けた。ルドラは立ち尽くしたまま、ボクが見上げると苦笑した。   「もちろんその頃はまだフィーが気になっていたからもあるけどさ……一番は、村が退屈だったから」   「……は?退屈?ああ……いや、そうか……ルドラほどの力を持っていれば、確かに辺境の村は退屈なのかな……」   「アレビナは……察しがいいな」  ボクは呆れてため息をつく。   「ボクだってこのひと月、ルドラのことを見ていたから。流石に分かっ……おい、なんの真似だ?」    ルドラがボクの目の前で跪いたので、ボクは動揺してそちらを見下ろした。ベッドについたボクの右手を取り、自分の額に当て、騎士の忠誠の礼をとる。これも、ボクがルドラに教えたことだ。  ボクは他ならぬルドラがこんな態度をとった時点で、ある程度何を言われるか覚悟していた。それでも、胸がぎゅっと痛くなる。   「アレビナ……どうか、オレの半身になってくれ。アレビナの家の事情は、正直まだ知らない事ばかりだが……オレにオマエを守らせて欲しい」    ルドラの声は震えていた。手も僅かに震えている気がする。いつも自信に満ちたような不遜な態度の男なのに、こんなこともあるのか……  ボクは自分も騎士を目指す人間なので、一方的に守られる関係など突っぱねてやりたかったのに……他ならぬルドラが不安そうに見上げてくると、どうしても強い言葉を選べなかった。   「ルドラの気持ちはすごく嬉しい……けど、ボクだって、キミを守れるようになりたいんだ。ルドラ……弱いボクがそう願うのを、キミは笑うか?」    ボクがルドラを引き寄せ、隣に座らせると……ルドラからボクを抱き締め、囁いてきた。   「……笑わねェよ。オマエは強い、アレビナ。今からソレを証明しに行こう」   「る、ルドラ……もちろんボクもできるだけのことはやるつもりだけど、予選の様子じゃ無理があるよ」    ボクが身じろぎをして身体を離すと、ルドラは少し考える素振りを見せた。   「なァ……あの、なんだっけ……精霊のお告げ」   「閑吟様の話?」   「そう、閑吟だ……あの話、信じてるか?」   「優勝して欲しいってやつ?うーん……ボクは自分が弱いことをよく分かってるから、なんとも……ルドラの為に頑張ろうとは思ってるけど」    ルドラは何故かちょっと不機嫌そうになり、深くため息をついた。   「オレはこういう……誰かに踊らされてるような状況が好きじゃねェんだけど……でも、コレが答えな気がする」   「あっ!何……ッん!ん……っ」    ルドラの唇が重なる。強引に歯列を抉じ開け、舌が侵入してきた。今までのような痛みに全く怯えなくてもいい触れ合いは、ボクにとって余りにも甘美で……魔力が混ざり合う快感にすぐに身体が屈服した。   「そんな顔で今更もう嫌だっつっても、止めてやれねェからな」    ルドラはちらりと外の太陽の位置を見てから、自分の服に手をかけた。まだ時間はあるらしい。共同生活の中、風呂場で何度も見た事がある筈なのに、ボクは露わになったその身体に見惚れて嘆息した。素直に羨ましい。   「いいなぁ……」    思わずそう呟いてしまって、頬が熱くなる。ルドラはそんなボクを笑うと、自分より随分と小さなボクの手を取って己の鎖骨辺りに押し当てた。   「今から、アレビナのモノになる」    ボクはその言葉に天啓を受けた気がした。  そうだ、そうやって戦えばいいんだ。   「……アレビナ?」   「ルドラ……ボク、分かったかも」   「……何が?この状況で言う事か?」   「うん、そうだよ……やっぱり囁きは正しかったんだ。ボクにはボクの戦い方が……ルドラ!」    ボクは頭の中で考えをまとめようと試みたが……実際に可能かどうかを判断するには、まず完全に半身として濃度まで同色になるしかない。ボクはルドラを見上げた。   「な……何だよ」   「今すぐボクを抱いてくれ!」    大真面目に言ったのに、ルドラは可笑しそうに笑い出した。 「クックッ……分かった分かった。元々そのつもりだったからな」    ルドラは少し不慣れそうだったが、丁寧にボクの身体をひらいてくれた。一つ一つ大事なものを確かめるみたいに触れられて、涙が出そうになる。初めて経験する優しい触れ方に、ボクは瞬く間に身も心も高められてしまった。  一度ボクが出したものを後ろに塗り付け、ルドラの指がゆっくりと中に入ってくる。   「ん、んっ……」   「大丈夫か?」   「うん……ッたぶん、すぐ入ると思う……」    悲しい事にボクの体はこういうことにすっかり慣れている。そう思って言ったのだが、ルドラが下着をずり下げて瞠目した。   「なっ……おま……それは」    流石に体格が良いだけあって、ルドラは相当立派なものを持っていた。途端に自信が無くなってしまう。   「や、やっぱ、待っ……」   「悪い、待てない」   「あ、そんな……あぁ……ッ!!ひっい、ぁ……っ!」    かつて無いほど押し拡げられて、ボクは久し振りに感じる強烈な圧迫感に悲鳴を上げた。ルドラも苦しそうに息を吐く。それでも痛みはなく、行き来する魔力がボクたちに強い快楽をもたらす。その事に気付いてしまえば、後は溺れてしまうだけだった。   「ン、ぁ……ッア!ぅ……んんッルドラ……ッ!」   「は……っアレビナ……痛くねェ、か……?」    ルドラがボクの顔に手を添えながら聞いてくる。ボクはその手に頬を擦り寄せた。   「うん、平気……っ……気持ちいい……ッ」   「オレも……」    ボクはそれを聞いてルドラの首に腕を回し、引き寄せようとした。体格差があったが、ルドラが上手くボクを抱き込むようにして、唇を寄せてくれる。  そのまま腰を揺らめかせられると、全身に鳥肌が立つほど気持ちが良くて、ボクは思わず腕に力を込めた。互いの身体に挟まれたボクの中心が、その隙間に白濁を散らす。その少し後にボクの中でも熱い感触があった。   「っあ……あ……はぁ……ッ」   「アレビナ……」   「ん……」    繋がっている今なら分かる。お互いが混ざり合い、じっくりと染み込んで行って、ボクたちは同じ色になった。どちらかと言うと、ボクが色の濃いルドラに濃度を引っ張り上げられたような形だが……同色になれたことが涙が出るほど嬉しくて、これがリグトラント人の本懐なのだと悟る。  ずっとこうしていたかったが、流石にそんな時間はない。ルドラがボクの中を丁寧に掻き出して綺麗にし、身体も再び拭ってくれた。  二人で綺麗な運動服に着替え、寮を後にする。   「そういえば、オマエの考えた戦法ってなんだ?」   「あ……うーん……説明が難しいな……でもたぶん、半身同士なら上手くできると思う。お互いの居場所が見ていなくても分かるし……この後ちょっとだけ試させてほしい」   「ああ、分かった」    ボクは敢えてルドラの前に出て、振り返らずに話す。確かに見ていないのに、不思議とルドラの存在を背後に感じることができている。   「半身になれたんだよな……未だに何か信じらんねェけど……」   「……そう?」   「でもオマエはこれで、あの兄貴にも、フレディアルの家にも縛られなくて良いんじゃねェのか」    ボクは思わず振り返った。   「オレと一緒にいろよ。オレは……いつかエドワード殿下の隊に入る。オマエも一緒に来ればいいだろ」   「まさか、そんな……この国の騎士達の中で、一番のエリートじゃないか……兄様を差し置いて、ボクが入るなんて……そりゃ、もしできればお祖母様だって口出しできなくなるだろうけど」    無理だと言おうとして、そもそもルドラがエドワード兄様にスカウトされてきたのだと思い出す。聞いたときは顎が外れるかと思う程驚いた。既に炎の扱いが達人レベルにある事にも納得がいった。ボクさえ上手く動ければ、ルドラはこの大会で優勝することも可能なのだろう。  エドワード兄様の隊に入ることを目指すのは、確かに悪くない話だった。お祖母様は弱いボクの人生を縛ろうとするが、自慢にしているエドワード兄様のそばへ半身と共に行くと言うのなら……流石にボクの好きにさせてくれる気がする。そうなれば兄様だって、ボクを魔力器にするために躍起になることもないんじゃないか。   「一緒に来てくれるよな?」    疑問系なのに有無を言わさぬ圧力があって、ボクは呆れながらも……笑って頷いた。  例え先程思い付いた戦法が通用しなかったとしても、ルドラと一緒ならどれだけでも頑張れる気がした。        

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