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第一章・9
気取られないように。
怪しまれないように。
ギルは、さりげなさと気軽さを装った。
まぁ、そういうことなら、とルキアノスはカプセルを開けると中の顆粒を口の中にさらさらと送った。
ギルから手渡された水で、体内に流し込む。
「効くかな」
半信半疑のような、曖昧な笑顔をルキアノスは向けてきた。
ここまで馬鹿正直な奴だったとは。
ギルは、もし効いた場合に私が何をしたいのか、ということを心の中で復唱していた。
錯乱したルキアノス。そんな彼を、一体どうしてやりたいのか。
いつも笑顔で人を惹きつけてやまない、真っ直ぐで健全な聖者の彼が、堕落に溺れるさまを見てみたい。
曖昧な笑顔は、薬に向けたものではない、とルキアノスは水を飲みながら考えていた。
ギル。お前は本当に、俺が妙な症状にとらわれたらば、介抱してくれるのか。
ベッドに寝かせ、傍にいて、嵐が過ぎ去るのを診ていてくれるのか。
互いに心は離れても、根の部分では信頼し合っていると信じたかった。
薬を試すのではない。ギルを試すのだ。
二人の思惑が交錯する中、時間だけが過ぎて行った。
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