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第一章・10

 どうだ具合は、と問われても、ルキアノスは、何ともない、と答えるより他なかった。  特に体に異常は感じられない。  性欲が高まってくるような気配もない。 「強いて言えば、少し脈が速くなったような気がする」  そういう彼の頬は少し赤みがかって、ろれつが回らなくなってきている。  澄んだ空のような青い瞳は、ぼんやり潤んできている。 「どれ、脈を測ってやろう」  ギルは、ルキアノスの手を取った。  手首に指を当て、拍を探ってみる。  しかし、力強く打つ脈をとるために手を取ったのではない。  ギルは、その手をそのまま持ち上げてみた。  されるがままに、力の抜けた腕。  その指先に、そっと唇を当てた。  かすかに音をたて、吸う。  ゆっくりと、上目づかいで自分を見つめてくる金色の眼に、ルキアノスは息を呑んだ。  指先にキスを落とされ、うろたえようとした、が、心が思うように働かない。  手を振り払い、何をする、と狼狽しようとする気持ちは心の奥の部分で小さく悲鳴を上げるだけで、表面に出てこない。

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