13 / 216
第一章・11
魅了。
ギルのまなざしに、震えがきた。
指先に押し当てられた柔らかな唇に、意識が痺れた。
こり、と指を噛まれた。
初めは緩く、そしてやや強く。
「うっ……」
ぴりっ、と背筋に鋭い感覚が走った。
「どうだ?」
ギルの声も、遠くに聞こえるだけだ。
何か変だ、と訴えたかったが、意味を成す言葉が出てこない。
「具合が悪そうだな。寝室へ行こう」
ギルが肩を貸し、椅子から引き上げてくれたところでようやく安心した。
あぁ、彼はやはり信頼のおける男だった。
この妙な心と体が鎮まるまで、介抱してくれるに違いない。
よたよたと、足元のおぼつかないルキアノスが預けてくる体を抱きとめながら、ギルはほくそ笑んでいた。
まさか、こんなに巧く事が運ぶとは。
さあ、ルキアノス。見せてもらうぞ、お前の本性を。
誰にも見せたことのない、聖人の醜態を。
ともだちにシェアしよう!