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第一章・11

 魅了。    ギルのまなざしに、震えがきた。  指先に押し当てられた柔らかな唇に、意識が痺れた。  こり、と指を噛まれた。  初めは緩く、そしてやや強く。 「うっ……」  ぴりっ、と背筋に鋭い感覚が走った。 「どうだ?」  ギルの声も、遠くに聞こえるだけだ。  何か変だ、と訴えたかったが、意味を成す言葉が出てこない。 「具合が悪そうだな。寝室へ行こう」  ギルが肩を貸し、椅子から引き上げてくれたところでようやく安心した。  あぁ、彼はやはり信頼のおける男だった。  この妙な心と体が鎮まるまで、介抱してくれるに違いない。  よたよたと、足元のおぼつかないルキアノスが預けてくる体を抱きとめながら、ギルはほくそ笑んでいた。  まさか、こんなに巧く事が運ぶとは。  さあ、ルキアノス。見せてもらうぞ、お前の本性を。  誰にも見せたことのない、聖人の醜態を。

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