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第二章 傷

 ルキアノスは必死で腰を動かしていた。  いや、動かそうとしていた。  だが、体が思うように言うことをきかない。  ようやっとの思いで、ぐいと前に突き出すと、その体の下にいる白い肌がひくりと動いた。  いけない。  そう言ったのは、その人の声であるか。  それとも、自らの心の声か。  そもそも、俺がこの腕に抱いているのは誰なのか。  解かっているような、それでいて認めるのが恐ろしいような。  しかし、心の奥底では彼の人がいったい誰であるかはしっかりと把握していて。  だからこそ、震えんばかりの興奮と快感が、ルキアノスを捕えて離さない。 「顔を、見せてくれ」  背けて見えないその顔を、見たい。確かめたい。  9割の臆病と、1割の勇気とで、そう声をかけてみる。  ゆっくりと、その顔がこちらを向いてくる。  金色の眼。  あぁ、やっぱり。  9割の悦びと、1割の絶望とで、満たされる。 「ギル……ッ!」  その途端、弾けた。  脳が溶けるような感覚が、襲ってきた。  体が解放されるとともに、精神に充足感がもたらされる。  あぁ、ギル。好きだ、ギル。  これは夢だ、と心のどこかで解かっている。  だからこそ、現実ではしっかりと封印して表に出さない思いも認められる。  そして。  これは、後始末がまた面倒だな……。  そんな冷めた考えが、エクスタシーに酔う脳に割り込んでくる。  現実は、かくも厳しく空しいのだ。    それでも、途方もなく気持ちがいい。  現実を、超越した快楽。  ルキアノスは全ての思いを手放し、しばしの間その悦楽に酔いしれた。

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