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第二章・4

 軽い朝食の後、ウォーミングアップ。  気持ちのよい汗をかいてから、ルキアノスは控室に入った。  室内にはすでに今日のパートナーであるギルが来ており、壁にしつらえたモニターの前に腰かけプログラムのデモ画面を眺めていた。 「これが今日のシミュレーションか。面白いのかな」  肩越しに、触れ合うほど近くで話しかけてくるルキアノスに、ギルは笑顔を向けた。 「きっと素敵に楽しいと思うよ。何たって、彼が考案したそうだから」 『彼』という部分にアクセントの置かれたギルの返事に、ルキアノスは苦笑いをした。  訓練プログラム製作担当者の中に、特別に奇抜な男が一人いる。  こいつはサディストに違いない、と確信させるほどに、毎度毎度ハードで捻りの利いたシミュレーションを作ってくるのだ。 「それはありがたい」  声を立てて明るく笑うルキアノスに対して、ギルは胸の内に複雑な思いを抱いていた。  媚薬で酔ったルキアノスと肌を重ねた。  きっと彼のその後の行動は愉快に違いない、と思っていた。  まだ少年だった頃私に向けていた憧憬と、性的な欲求を甦らせて、心底悩むに違いない、と思っていた。  ルキアノスが、自分に対して特別な感情を抱いていたことを、ギルは知っていた。  だが男同士だから、同僚だからと必死で気持ちを抑えるルキアノスを見るのは、面白かった。  それでも好意を抑えることができずに、時折見せる幼い愛情表現が滑稽だった。  食堂で私の真向かいに席をとってみたり、ディスカッションの講義で私の意見の擁護に回ってみたり。  他人には解からないだろうが、私は知っていたんだよ、ルキアノス。君が私のことを、特別に想っていたことを。  だからこそ、気付かないふりをするのは楽しかった。  彼の愛情を空回りさせては、喜んでいた。    もうすっかり大人になって、そんな気持ちをしっかり閉ざした蓋を、大きく開けてやったのだ。  成人した彼が、今度はどんな行動に走るのか興味があった。  だが、それからのルキアノスに何ら変わったところは見られない。  いつもどおり彼は同僚として、普段通りに接してくる。  肩すかしを食らったような、もどかしい気持ちをギルは味わっていた。

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