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第二章・12

 あなたが付いていても、何の役にも立ちませんから、と至極もっともではあるが冷たい言葉を看護士に叩き付けられ、ルキアノスは医務室の廊下につっ立っていた。  室内では、火傷を負ったギルの治療が行われている。  どさり、と長椅子に腰かけ頭を抱えた。  ぐしゃぐしゃと髪を掻きむしり、己の甘さを繰り返し猛省する。  ギルの姿をしたエネミー。  本物のギルではないと、咄嗟の判断はしたはずだった。  彼は、俺の背中をしっかりガードしてくれていたのだから。  それでも、拳を出せなかった。  偽物でも、ギルをその手にかけることができなかった。  いや、もしかして。  ギルになら、殺されても構わないと思ったのか、俺は。  まさか、と自分でも考えても見なかった気持ちの可能性に、愕然とした。  死への憧憬など、この俺にあるはずがない。  しかし、いずれは失う命。  それが、ギルの手によって執行されるとしたら……。  あまりに不健全な考えに、ルキアノスはいてもたってもおられず長椅子から立ち上がった。   それと同時に、医務室のドアが開いた。 「ギル!」  看護士に体を支えられているギルは、肩から背中、胸にかけて白い包帯を巻いていた。  顔色は優れないが、ルキアノスの声に、薄く笑った。 「何て声をあげるんだ。大したことはないんだぞ」  ギルがそう言うほどに、ルキアノスの叫びは悲痛だった。

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