45 / 216

第二章・16

「すまない、ギル」  ルキアノスは、そう呟きながらギルの火傷の後にそっと唇を当てた。  初めは羽根が振れる程度の軽さであったが、次第に強く、深く押し付けるようにした。  唇だけではない。  やがては舌を伸ばし、丁寧に舐め始めたところで、ギルの声にならない声がかすかに漏れた。 「……っふ」  温かなオーラが、ルキアノスの口を通してもたらされてくるのを感じる。  ヒーリングだ。  ルキアノスは、私の傷を、治そうとしてくれているのだ。  ただ、それだけだ。  引き攣れたように疼く、熱い痛みがどんどん引いてゆく。  オーラだけではない。彼の思いも伝わってくる。  すまない、ギル。許してくれ。  それだけか、ルキアノス。  お前の気持ちは、それだけなのか?   ただそれだけの思いで、この私の肌を舐めまわしているのか?  やがて赤黒い火傷の痕は、瑞々しい桃色へと変化した。  皮膚の再生が始まったのだ。  これでもう大丈夫。  後は、自然に治ってゆくだろう。  ルキアノスは、そこで唇を離した。

ともだちにシェアしよう!