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第二章・25

「すまなかった」  ようやくの思いで、そうつぶやいた。 「それだけか?」  ギルの返事に、ルキアノスは顔をあげた。  どういう意味だ。  考える間もなく、ギルは言葉を継いだ。 「いや、いいんだ。先に出てくれないか。私は、体の後始末がある」  体内に残ったルキアノスのものを、外に出さねばならない。  ほんのついさっきまで、あんなに二人で熱く深く愛し合ったというのに、あぁ、彼はもうこんなに冷静だ。  とぼとぼとシャワールームから去ってゆくルキアノスを、ギルは黙って見送った。  ついに堕落した。  その両の翼をもぎ取り、天から地へと叩きつけてやった。  ルキアノス、今頃ひとり部屋にこもって、どんな気分でいるのやら。  体を清め、衣服を身に着け、ギルは自分も私室へ戻った。  普段使いより高価な酒をグラスに注ぎ、一口含む。豊潤な香りを咥内で味わってから、喉に通す。  愉快だ。  あの聖人君子のルキアノスが、無理やり同僚の体を汚すような真似をしでかしたのだ。  これでもう、彼は真っ直ぐな眼で私を見ることはできまい。

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