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第二章・28

   体を拭く気にもなれず、水をしたたらせながらバスルームから出た。  ぺたぺたと濡れた足で歩いていると、洗濯機に赤いランプが灯っている。  のろのろと、中から朝方放り込んだパジャマを取り出した。  汚れはすっかり落ち、きれいに仕上がっている。  だが、俺の心には拭い去れない汚れがこびりついてしまったんだ。  ただひとつ確信しているのは、ギルはきっと次に顔を合わせた時も変わらず冷静に、これまでどおり同僚として接してくるだろう、という現実。  そう、あのギルが、感情に任せて人を避けたりするはずがない。  では俺も、そのように振る舞うのか?   二人だけの秘密を抱えて、封印してしまうのか。  無かったことにしてしまうのか?  それも、できそうにない。 「好きだ、ギル。許してくれ」  同性を、同僚を愛してしまったことに、ルキアノスは許しを乞うた。  同性の友人への憧憬を越え、体だけでなく、心までもすっかり奪われてしまった迂闊さに、身が千切れそうだった。  そして、それを素直に口に出せない自分の穢れを、恥じた。  濡れた体のまま、素裸のまま、ベッドへ倒れ込んだ。  思いのほか疲れていたのか、すぐに猛烈な眠気が襲ってきた。  また、見るのだろうか。  淫夢を。  ギルを相手に。  夢の中でくらい、この気持ちを伝えようと考えながら、ルキアノスは静かに眼を閉じた。  そしてルキアノスは、また一歩死へと近づいた。

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