59 / 216

第三章・2

 礼を崩したギルの周囲にはすでに仲間たちはおらず、独り考え込みながら回廊へと歩いた。  先だって、ルキアノスとタッグを組んでの戦闘シミュレーションを受けた。  最後の最後で気を緩めたルキアノスをかばい、負傷を負ったギル。  傷をヒーリングで治してくれたルキアノスと、そのままなし崩しに交わった。  彼に、抱かれた。  ただひたすら、欲情の赴くままギルを犯したことを謝るルキアノスの姿は、その時はとても愉快だった。  穢れを知らぬ、聖地カラドの翼持つアンゲロスを堕落させた喜びに、笑った。  しかし、とギルは回廊へ出て首を軽く振った。  ただ謝るばかりのルキアノス。  好きだ、との言葉はなく、愛ゆえに自分を抱いたとは決して言わなかった彼に、ひどく苛立ちを覚える自分に戸惑った。  その思いは無理にねじ伏せて床に就いたが、まどろむ中で愕然とした。  私は、ルキアノスをかばって傷を負ったのだ。    なぜだ、と震えた。  そのまま放っておけば、忌々しい彼を少々痛めつけてやることができたのに。  ただ無意識に、反射的に彼をかばった自分の行動。  結果的にルキアノスを苦しめる事となったので忘れていたが、なぜ私が彼を守るために動かねばならない?   しかも打算や損得抜きでの、全くの本能で。  頭に浮かべば自らを締め上げ、苦しめる思考だったので、ただ明日のルキアノスの行動を予測しては、どう接するかをシミュレーションした。  無理に犯した同僚に、どの面下げて顔を合わせてくるか、どんな言葉をかけて来るかを考え、悦に入った。  君がどう繕おうと、私は変わらないよ。ルキアノス。    何事もなかったかのように、ただいつものように接するだけだ。  しばらくは、罪の意識にさいなまれるであろうルキアノス。  気まずく、私を避けたりするのだろうか。  そんな事を考えながら、いつしか眠りに落ちた。  そして、朝の礼拝。  まさか、欠勤しようとは。

ともだちにシェアしよう!