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第三章・2
礼を崩したギルの周囲にはすでに仲間たちはおらず、独り考え込みながら回廊へと歩いた。
先だって、ルキアノスとタッグを組んでの戦闘シミュレーションを受けた。
最後の最後で気を緩めたルキアノスをかばい、負傷を負ったギル。
傷をヒーリングで治してくれたルキアノスと、そのままなし崩しに交わった。
彼に、抱かれた。
ただひたすら、欲情の赴くままギルを犯したことを謝るルキアノスの姿は、その時はとても愉快だった。
穢れを知らぬ、聖地カラドの翼持つアンゲロスを堕落させた喜びに、笑った。
しかし、とギルは回廊へ出て首を軽く振った。
ただ謝るばかりのルキアノス。
好きだ、との言葉はなく、愛ゆえに自分を抱いたとは決して言わなかった彼に、ひどく苛立ちを覚える自分に戸惑った。
その思いは無理にねじ伏せて床に就いたが、まどろむ中で愕然とした。
私は、ルキアノスをかばって傷を負ったのだ。
なぜだ、と震えた。
そのまま放っておけば、忌々しい彼を少々痛めつけてやることができたのに。
ただ無意識に、反射的に彼をかばった自分の行動。
結果的にルキアノスを苦しめる事となったので忘れていたが、なぜ私が彼を守るために動かねばならない?
しかも打算や損得抜きでの、全くの本能で。
頭に浮かべば自らを締め上げ、苦しめる思考だったので、ただ明日のルキアノスの行動を予測しては、どう接するかをシミュレーションした。
無理に犯した同僚に、どの面下げて顔を合わせてくるか、どんな言葉をかけて来るかを考え、悦に入った。
君がどう繕おうと、私は変わらないよ。ルキアノス。
何事もなかったかのように、ただいつものように接するだけだ。
しばらくは、罪の意識にさいなまれるであろうルキアノス。
気まずく、私を避けたりするのだろうか。
そんな事を考えながら、いつしか眠りに落ちた。
そして、朝の礼拝。
まさか、欠勤しようとは。
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