60 / 216

第三章・3

 少なくとも1日に1回は顔を合わせるルキアノスが3日も姿を見せないとなると、ギルも何やら不思議な心地がした。    いつもそこに、私の側にいるはずの男が、いない。    心配、というわけではない。  ただ、違和感を感じるのだ。  幼い自分が聖獣・ザンの神騎士となった時、上にいるのはルキアノスただ一人だった。  ギルを導き、過酷な訓練に付き合い、まだ不慣れな任務に同行して助言ができるのは、彼だけだった。  ギルはルキアノスに、憧れていた。尊敬していた。  そしてそれは、徐々にギルの心を蝕んで行った。  どんなに手を伸ばしても、どんなに背伸びをしても、決して彼には追いつけない。  そしてそんな私の妬みやら嫉みやらをも、包み込んでくるルキアノス。  跳ね返し、嘲られた方がまだましだったと思う。  おそらくは、こんな私の心の澱に勘付きながら、それでも両腕を拡げてくる。  すべてを受け入れようと、待っている。  やめろ。  そんなものは、君の慢心だ。  私の心の闇の深さが、君に解かるはずもない。  は、とギルは眉間に中指を当てた。いつのまにか、表情に険が立っている。  眼を軽く閉じ、ふぅと一息ついた。  ルキアノス。  いてもいなくても、私をここまで苦しめるのだな、君は。

ともだちにシェアしよう!