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第三章・4

 そんな時、誰かに声をかけられた。 「失礼します、ギル様。あなた様宛てに、メッセージを預かって来ております」  見ると、下位の甲冑を身に纏った少年がひとり。  この甲冑はたしか、ヴァリークシュだ。 「ヴァリークシュの君がメッセンジャーを務めるとなると、差出人はルキアノスかな?」 「はい。ヴァリークシュβの騎士・カリラです。どうぞお見知りおきを」  確か、聖獣・タンの直下に所属するヴァリークシュの騎士は、今現在4名いたはず。  その中でメッセンジャーを務めるとは、ルキアノスに一番信頼されている男なのだろう。 「ありがとう。彼の具合は、どうかな。もう、熱は下がったのだろうか?」 「それが私も、ルキアノス様には直にお会いしておりません。ただ、表戸の前にこれが置いてありまして、ギル様にお届けするようインターホン越しにお声掛けいただいただけで」  風邪をうつしてはいけないとのお心遣い、感謝しております、とカリラは真っ直ぐな眼を向けてくる。  あぁ、私もこんな眼でルキアノスを見ていた時もあったっけ。  そんなギルの心の内も知らず、ヴァリークシュβは素早く飛び去って行った。  甲冑を纏い、文字通り飛んで届けろとなると緊急か。  少々改まった面持ちで、ギルは渡された手のひら大のメッセージプレートに親指をかざした。  本人の指紋でしか開くことのできないプレートで寄越してくるとなると、機密の匂いもする。  だが、浮かび上がってきた文字は、いたって簡潔だった。 『俺の部屋へ 来てほしい』  ただ、それだけ。  理由も延べず、ただ呼びつけるとは。  しかし、ルキアノスの性格を考えると、悪ふざけではないだろう。  俺の神殿へ、ではなく、俺の部屋へ、となると、共同宿舎の彼の個室か。  病気なら、神獣・タンを祀る神殿で臥せって、そこの人間に面倒をみてもらっているはずと考えていたギルには、これまた意外だった。  彼に抱かれて、3日経っていた。  彼の顔を一度も見ることなく、3日経っていた。  すでにギルの、あの時の焼け付くような思いはずいぶん冷めていたので、何も勘ぐることなく彼の部屋へ向かった。

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