62 / 216

第三章・5

「やぁ、こんなに早く来てもらえるなんてね」  オートドアが開くなり、笑顔のルキアノスに出迎えられてギルは面食らった。  さすがに少しやつれた感がある。  しかし、充分に元気そうだ。マスクもしていない。 「インフルエンザじゃないのか? マスクくらいしてくれ。私にうつされてはかなわない」  まぁ、その話は中でゆっくり、と背中を押されるようにギルは室内へ招き入れられた。  リビングへ通されソファに座ると、ルキアノスがタブレットに何か入力している。  端末を操作しながらギルにかけてくる声に、再び面食らった。 「ギルは~、何か食べたいものあるか? イタリアンでもいい? ピザにかぶりつきたい気分なんだ。さすがに3日間絶食してたら、お腹がすいて仕方がない」  返事もできずにおとなしくソファへ座っていると、デリバリーを終えたルキアノスがとりあえず作ったと見えるスムージーを飲みながら、ギルの前に腰かけた。  そして、3度目の面食らう言葉を吐き始めた。 「で、こんなに早く来てくれるって事は、それなりに心配してくれてたのかな、俺を」  自分では気づいていなかったことを、こうずけずけとルキアノスに言われギルは軽くひるんだが、そこは普段の通り繕った。 「当たり前だろう。しかし、神騎士ともあろうものがインフルエンザにかかるとは。もっと気を引き締めて欲しいな。下に示しがつかない」 「俺は一言も、インフルエンザにかかった、とは言っていないよ」  何だって、とギルは眉を曇らせた。  まさか。  やめろ、ルキアノス。聞きたくない。 「法皇様には、ウイルス性の疾患にかかった、と言ったがね。まぁしかし、あの御方なら気づいておられるかもしれないな。俺が仮病で休んでる、って事」  仮病。  清く正しく美しいはずの、神騎士・ルキアノス様が、仮病。

ともだちにシェアしよう!