64 / 216

第三章・7

「3日間、飲まず食わずで寝て過ごしたのは本当なんだ。何もやる気が起きなくてね。ただ一つの事ばかり、必死になって考えてた。それは、ギル。君のことだ」  やはり、と思ったギルだったが、どうして、と答えた。 「どうしてだ? あの事を気にしているのなら、もう忘れてくれて結構だ。私は何とも思ってやしない」  今度は、ギルの方から駒を進めた。  あの事、とは。  それは、ルキアノスがギルを犯したことに他ならない。  自分の方から切り出し、軽く持ち運ぶことで、ギルはこの胃が痛くなるような場から逃れたかった。  ルキアノスが、自分で自分をどんどん暴いていくことをやめさせたかった。 「ホントに? ホントに、何とも思ってないのか。君だって、あんなに乱れたのに?」  ルキアノスは、少し微笑んだようだった。  切り口を変えて攻めてきたか。  ギルは、歯噛みする思いだった。 「三日間、考え抜いたよ。俺なりに。でも、どんなに捻くれて考えようとしても、結局行きつくところは同じなんだ。俺は、ギル。君の事を」 「私は!」  ルキアノスの言葉を遮るように、ギルはひとまわり大きな声をあげた。 「私は、人間だ。私だって、人の子だ。人並みに性欲もあれば欲情もする。君は巧かったよ、ルキアノス。私は、その場限りのセックスに溺れた。ただ、それだけだ」  君だって、そのはずだ、とギルは括った。  そう、ただ体が互いを求めただけだ。それ以上でも、それ以下でもない。  深く考えるのはよせ、ルキアノス。自分を勘ぐるんじゃあない。  しかし、ルキアノスはギルの否定をただ聞いただけで、途切れた言葉をそのまま続けてきた。  ただ真っ直ぐにギルを見つめ、そしてふと逸らしてぽつりと言った。 「俺は、ギル。君の事を愛してるんだよ、多分。いや、きっと」  今度はギルが、グラッパを一口飲んで喉を湿らせた。  カラカラに乾いてくる口を、やたら強い酒で潤した。

ともだちにシェアしよう!