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第三章・8
初めてギルに会った時、何てきれいな子なんだろうと胸をときめかせた。
初恋だった。
その後、長続きする恋愛もしたが、一瞬にして心を奪われた恋は、いくら幼い頃だったとしてもあれが最初で最後。
ギルは男の子だったので残念ながらその恋は瞬く間に砕け散ったが、あれが自分の初恋だったと今でも思う。
それほど、鮮やかだった彼との出会い。
4つ年下の6歳だった彼は、すでに聖獣・ザンの神騎士としての星の恵みを受けていた。
後はその名に恥じぬよう、心技体を伸ばすのみ。
俺が見てやらなくちゃ、俺が導いてやらなくちゃ、と、その日からルキアノスは、真の意味で神騎士となったような気分を味わった。
今までは、たった一人の神騎士として孤独な日々を送っていた。
それが、一変した。
「これは、何という意味ですか。ルキアノス様」
「このような時は、どうすると善いのでしょうか。ルキアノス様」
「もう一度、手合せ願えますか。ルキアノス様」
ギルは、礼儀正しい少年だった。
ルキアノスから見ると、たった4つしか違わないと感じる年の差をひどく重んじ、いつも丁寧な言葉を使っていた。
「同じ神騎士なんだ。もっと、くだけた話し方でいいよ」
「ですが、ルキアノス様」
「ほら、また~」
しかし一方で、これまで感じた事の無かった優越感を味わっていたのだ、とルキアノスは思う。
6歳だった彼がようやく10歳になった時、俺はもう14歳。彼が14歳に追いついたところで、俺はすでに18歳。
ギルは成人した時に、ようやく俺をルキアノスと呼んでくれるようになった。
君、と扱ってくれるようになった。
嬉しかった。
「だけど、俺の心の内にはね。君に対する優越感と同時に、どうしようもない劣等感も芽生えていたんだよ」
「やめろ、ルキアノス!」
ギルは優秀な少年だった。
俺より2年早い6歳で、すでに神騎士として甲冑にその主として認められた。
何でも、飲み込みが速かった。
俺が8歳でようやく読み始めた哲学書をギルは7歳で読み終え、俺が12歳で初めて銅賞を貰った彫塑のコンクールで、ギルは11歳になったばかりなのに金賞を取った。
俺が14歳で獲得した神騎士の究極奥義を、ギルは12歳で駆使するようになった。
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