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第三章・9

「自分より劣る人間が兄貴面する姿を見るのは、滑稽だったろう?」 「馬鹿を言うな。君の方こそ、私ができない事でも何だって簡単に」 「4つ年上だったからさ。子どもの頃は、特にそうだ。4年も離れていれば、何だって簡単にやってのけて見えるものさ」  ギルは、変な汗を手にびっしょりかいていた。  ルキアノス、一体何の話だ?   ふざけるのも大概にしてくれ。   タンの神騎士・ルキアノスは、もっと鷹揚な男だ。  いつも正しく曲がったところのない、挫折や屈折とは無縁の聖人。それが、ルキアノス。  それが、私のルキアノスだろう!?  汗をかいた手を、そっと握られた。  ぞわり、と悪寒が走った。 「今はもう、お互い大人になった。こんな恥をさらけ出せるのは、ギル。君だけなんだよ」  しかし、手を握られた事でギルは急速に理性を取り戻していった。  ほとんどチェックメイトだろうが、まだ何回かは駒を動かせる。 「そんな告白をされても、私にはどうすることもできないぞ。ルキアノス。この体が欲しいか? いいとも、抱かせてやる。さっきも言ったが、君はとても巧かったからな」 「ギル! そんな強がりはやめてくれ!」 「強がりでもなんでもない。慰めて欲しいなら、この身体を好きにするがいいさ」 「……ッ!」  ああ! ここでも!  いつでも、いつまでも、俺より年下の癖に俺より優位に立っているのだ、このギルという男は! 「来い」 「……」  黙って、ギルはルキアノスに手首を掴まれ寝室へ放り込まれた。  ムスクの香りがする。  最初から、その気だったという事か。 「ギル」 「何だ」  ベッドに押し倒され、ほとんど触れ合うほどに顔を近づけられても、ギルはただルキアノスを見つめ返した。  決して甘くはない、ルキアノスの表情。  それでいい。  ルキアノス、君に愛だの恋だのと言う媚は似合わない。 「生意気な奴だよ、君は」  返事は、できなかった。  ルキアノスの唇が、ギルの口をしっかり塞ぎにかかってきた。  大きく、食んでくるキス。  何度も何度も貪られ、唇が離れるわずかの間に溺れるような息継ぎをした。  そしてその度、ルキアノスも息継ぎをするように名を呼んできた。 「ギル。ギル……、ギ……ルッ」  キスをしながら、ルキアノスの手がギルの服をまさぐってきた。  次第にはだけられてゆく肌は、熱く火照り始めていた。

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