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第三章・10

 蕩けるように吐く息を、時折鋭く吸う息を気取られないよう、ギルはただルキアノスの愛撫を受け止め堪えていた。  硬く強張ったギルの身体を甘噛みし、揉み解してくるルキアノスはそれを笑い、耳元で囁いた。 「もっと、力を抜いて。さっきの勢いは、どうしたんだ? 抱かせてくれるんだろう?」  びくん、と跳ねたギルの背筋の感触を、ルキアノスは心地よく受け止めた。  3日前の、あの焦げ付くような熱はない。  ただひたすら、ギルに溺れた自分はもういない。 「俺は、ギル。君が好きなんだ。愛してるんだ、ギル」    3日間考え抜いて出した答えは、いたってシンプルなものだった。  好きだ。愛している。  そう認めてしまえば、楽だった。 「ギル。君も、俺のことが好きだろう? ん?」  怖気が走る。  ギルは、頭の内で必死に否定していた。  私が、ルキアノスを愛しているなど、ありえない。  だが、口に出してもらうと心が緩む。  ルキアノスという名の悪魔に、魂を売り渡したくなってくる。 「好きだ」  そう言って、ルキアノスは唇をギルの胸に這わせ始めた。  片手で、形よく整った胸筋を揉み上げ、その中心の蕾を指できつく押しつぶしてくる。  押しつぶした後は、舌先で触れるか触れないかくらい浅く舐めあげてくる。  そうしながら、片手はすでにギルの身体の中心を捕らえて離さないのだ。  ゆっくり、丁寧に。  指5本を使って器用に、ギルの肉茎を、陰嚢を刺激してくる。  シャワールームで激しく求めてきたルキアノスとは、まるで別人のような動きだ。 「巧いと言ってくれたからね」  くすくすと喉奥で笑いながら、まるでギルの心の内を読むかのように語りかけてくるルキアノスが恐ろしい。  だが、そんな怖気も恐怖も、今はただ自分を昂ぶらせる材料にしかならない事が忌々しい。 「……ッ、く。んッ」 「我慢しないで」  ルキアノスはいったん愛撫を軽くすると、再びキスを繰り返しながら身を起こした。  手探りで、サイドテーブルにある何ものかを掴んでいる。  ローションか、とギルはのぼせ上がりかけた頭で考えた。  ありがたい。  これでさっさと済ませてくれるのなら、それに越したことはない。  早く、解放されたかった。  このままじっくり愛され続けると、自分が自分でなくなるような、嫌な予感しか湧いてこなかったから。  

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