71 / 216
第三章・14
ぴくりとも動かないギルは、まるで息絶えているかのようだ。
死の間際にも、お前は俺の名を呼んでくれるだろうか。
散々食べて、散々飲んで、散々動いたおかげで、ルキアノスの瞼も次第に重くなってきた。
だが、寝入ってしまう前に、やらなければならない事がある。
べたべたで、どろどろに汚れたギルの身体を、丁寧に拭き清めた。
まるで少年の日に、格闘訓練で汗まみれ泥まみれになった彼を、笑いながらタオルで拭いてやった時のように優しく清めた。
そして最後に、衣服まで整えた彼をリビングのソファに横たえた。
そこまでやってようやく、自分も横になると寝息を立てはじめた。
「何をやった」
「別に、何にも」
ソファの上に起きだし、こちらを睨むギルの眼はまるで山猫だ。
金色の彼の眼を、こんなにも美しく見るのは久しぶりだとルキアノスは微笑んだ。
「笑うな! 笑って誤魔化すな!」
いつもそうだ。
ルキアノスの笑顔は、なにか臭う。
本心から笑っていない、まるで仮面だ。
憤るギルの怒りから逃れるように、ルキアノスはゆっくり眼を閉じた。
ただ、と両掌で顔をゆっくり撫で、深呼吸を一つしてから言葉を継いだ。
「君を、抱いた。これでいいか?」
「ルキアノス……ッ!」
ともだちにシェアしよう!