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第三章・14

 ぴくりとも動かないギルは、まるで息絶えているかのようだ。  死の間際にも、お前は俺の名を呼んでくれるだろうか。  散々食べて、散々飲んで、散々動いたおかげで、ルキアノスの瞼も次第に重くなってきた。  だが、寝入ってしまう前に、やらなければならない事がある。    べたべたで、どろどろに汚れたギルの身体を、丁寧に拭き清めた。  まるで少年の日に、格闘訓練で汗まみれ泥まみれになった彼を、笑いながらタオルで拭いてやった時のように優しく清めた。  そして最後に、衣服まで整えた彼をリビングのソファに横たえた。  そこまでやってようやく、自分も横になると寝息を立てはじめた。 「何をやった」 「別に、何にも」  ソファの上に起きだし、こちらを睨むギルの眼はまるで山猫だ。  金色の彼の眼を、こんなにも美しく見るのは久しぶりだとルキアノスは微笑んだ。 「笑うな! 笑って誤魔化すな!」  いつもそうだ。  ルキアノスの笑顔は、なにか臭う。  本心から笑っていない、まるで仮面だ。  憤るギルの怒りから逃れるように、ルキアノスはゆっくり眼を閉じた。  ただ、と両掌で顔をゆっくり撫で、深呼吸を一つしてから言葉を継いだ。 「君を、抱いた。これでいいか?」 「ルキアノス……ッ!」    

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