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第四章 機密
どやどやと、賑やかというより騒々しい。
そんな空気をまき散らしながら、聖獣・マーオの神騎士ニネットは聖地のメインセンター内を大股で歩いていた。
ああ、こン畜生。
痛てェじゃねえか、この野郎。
そんな荒々しい言葉は、思いもかけず下手を打った自分への罵声なのか。
がしゃがしゃと甲冑の響きも激しく、その白金の鎧には返り血で戦化粧が施されている。
彼が歩いた後には、血の跡が続いていた。
ぴかぴかに磨き上げられた清潔な回廊に、赤い模様を描いていた。
「ニネット様、どうか手当を。せめて、止血を」
美しい蛾眉をひそめて心配そうに連れ添うのは、聖獣・ホイの神騎士バーラ。
ニネットは、そんなバーラに笑顔を見せると傷ついた右腕に下げた布包みを掲げて見せた。
「一刻も早く、こいつを生体技術部へ届けなきゃなんねえのよ」
一抱えほどの大きさ。
元は純白だったマントが、朱に染まって何物かを包んでいる。
中身は何か、バーラは薄々感じていた。
メロンではない事だけは、確かだ。
「おう、てめえら! 俺様からの土産だ。受け取ンな!」
ニネットの響き渡る大声に、オートロックが素早く開き中から白衣の技術者が顔をのぞかせた。
「ニネット、負傷したのか!?」
慌てる技術者に向かって、ケガは戦士の勲章、と嘯くニネットに、奥から冷静な声が通ってきた。
「怪我も大概にしないと、今度は右目をも失くすことになりかねん。もっと丁寧に、慎重に戦ってくれ」
「はいはい。ギル法皇様のおっしゃる通りで」
ギル法皇。
違う。
私はまだ、法皇ではない。
ルキアノスと共に、法皇候補と呼ばれるだけの存在だ。
軽く曇ったギルの表情を確認し、ニネットは声を立てて笑った。
法皇の座においては、何かと一喜一憂するこの神騎士、実にからかい甲斐がある。
「おい、ニネット。あんまりギルをいじめてくれるな」
「おやおや。ルキアノス法皇様もいらしたとはね」
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