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第四章・2

 ルキアノス。  聖獣・タンの神騎士で、ギルと共に新たな法皇候補の人間だ。  しかしこちらの方が、重い肩書に振り回されることなく上手に付き合っている、とニネットは思っていた。 「おだてても、何も出ないぞ。だが近いうちに、何か美味いものを食べに行こう」  ラッキ~、とニネットがやたらとはしゃいだ声を出す。  ルキアノスには、解かっている。  そんな軽口を叩いていないと、今にも失神しかねないほどニネットが苦しいのだという事が。  しかし、先に失神したのは情けないことに、彼から謎の包みを受け取った技術者だった。  ひぃッ、と裏返った細い声を上げ、膝からくず折れ床に伏してしまったその姿。 「内勤の白襟ちゃんには、刺激が強すぎた?」  ごろんと床に転がったのは、人間の生首。  ニネットはその首の髪を無造作に掴み拾い上げると、ベテランの落ち着いた部長に差し出した。 「闇騎士の脳だ。死にたてのほやほやだから、スキャンすれば何かイイ情報が掴めるかもよ」 「せめて、高真空保温ポッドに入れてきてくれませんかね」  そんなモン、準備する余裕なんかなかったっての、とニネットは口を尖らせた。 「まさか戦闘になる、なんて思ってなかったからよぅ」    そして、こちらも虚を突かれたので、ドジ踏むことになった、と右腕の負傷を言い訳する。 「甲冑にゃあ、ケバケバしい羽が6枚も付いてやがった。結構、上の人間じゃね? これ、ひょっとしてお手柄? 俺様、大手柄?」  しかしその時にはもう技術班のスタッフ達は、脳から記憶を取り出し解析する作業に取り掛かかっており大忙しだ。  誰もニネットに構ってはくれなかった。  だがそこに静かな、そして威圧感のある声が響いてきた。 「確かにお手柄だな、ニネットよ」  部屋の奥、ドアで仕切られていないさらに奥まった器械室から出てきた思いがけない人物は、正真正銘の現法皇だった。 「おやおや、これは御大」 「特別勤勉手当の支給を検討しよう。だから早く、止血するがいい」  失血のひどいニネットの顔色は、目に見えて悪くなっている。  医療棟まで無事たどり着けるかどうか、怪しい。 「どれ。私が治してあげよう」  法皇はそう言うと、まるで自然な動作でニネットの右腕に片手を添えた。

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