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第四章・11
俺の部屋へ、来いよ。
そのルキアノスの言葉に、ギルは違和感を覚えた。
彼は確かに自分より年上だが、日常生活で命令形を使う事はまずない。
これは、誘っているのだな、とはすぐに勘付いたが、いつもの彼ならばこう言うはずだ。
俺の部屋に、来ないか?
少し、照れながら。
この年下の恋人に、お伺いを立てるような、お許しを願うような口調で。
そして二人、ルキアノスの部屋で軽い食事を摂り、普段よりちょっぴり贅沢な酒を飲み、他愛ない会話を楽しむ。
「すまないが、シャワーを使ってもいいか」
ギルがこう言えば、それがOKのサイン。
彼が身を清める間に、ルキアノスは寝室を整える。
清潔なリネンに、蠱惑的な香。柔らかく落としたルームランプの光。
そしてギルが髪を乾かす間に、ルキアノスはシャワーを使う。いつも素早く。彼の気が変わらないうちに、と急いた心地で。
そんな小さな儀式を経て、二人は体を交わすようになっていた。
俺は、ギル。君の事を愛してるんだよ、多分。いや、きっと。
そんな風にぎこちなく、しかしハッキリとルキアノスがギルに胸の内を打ち明けて時が経っていた。
今でもギルは、物思いに耽る。
一体どうして、こんな関係になってしまったのか。
最初に交わったのは、自分から。
思いがけず手に入った媚薬を使い、私は意識が混濁しているルキアノスを抱き、そして抱かれた。
二度目は、彼をかばって負傷した後。
ルキアノスは責任を感じた情でもって私を癒し、そのまま欲情に耐えられず犯してきた。
そして三度目は、告白とともに。
愛の言葉を口走りながらも、私をさんざん苛めまわしたルキアノス。
私の体はルキアノスという男の愛を、欲を、精を。
甘美な毒を受け止め、すっかり狂わされてしまった。
殺してやる。殺してやる……、殺してやる!
正気を取り戻したのち、ルキアノスをそう呪いながらただがむしゃらに駆けた。
走って走って、もういっそこのまま心臓が破裂して死んでしまえば、どれほど楽なことか。
そう。それからというもの、ギルは死よりも苦しい渋難をひたすら味わい続けているのだ。
誰も私など愛さないし、私も誰をも愛さない。
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