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第四章・12

 生まれてすぐの赤子の時に、ギルは聖獣・ザンの神騎士となるべき星の恵みを受けている、と聖地のメインセンターから遣いが来たらしい。  その運命どおり神騎士となるように、乳飲み子の頃から引き取って英才教育を施したい、と。  なかなか首を縦に振らない両親だった。  誰が可愛い我が子を、余所へやったりできるものか。  だが、ギルが目を開けた時から、父の、母の心は揺らぎ始めた。  我が子は、金色の眼を持っていたのだ。  不吉な子として、一族の誰もが聖地本部へ引き渡すよう促した。  それでも、もはや半ば意地になって自分らの手でギルを育てていた両親だったが、成長するにしたがって我が子に恐怖を感じるようになってきた。  手を使わずに、遠くにあるものを引き寄せて掴む。  夢で見たと言って話したことが、現実となって起きる。  鬼ごっこをしていても、つかまえた、と思ったとたん姿が消え、突然背後に現れる。  これらの特殊能力は、ファタルの騎士としては喜んで受け入れられる技能の一つだが、一般社会の人間にとってみれば得体のしれない化け者の持つ力だ。  結局ギルは、聖地のメインセンターへ連れて行かれた。  両親は、多額の謝金を受け取ったらしい、とは後になって知ったことだ。  私は、親に売られたのだ。  そう悟った時から、ギルは他人に好意を抱くことをやめた。  他人からの好意を、受け入れることをやめた。  それでいい。  騎士に必要なのは、愛情などではない。  ものを言うのは戦闘力。それだけあれば、充分なのだ。  

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