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第四章・13
だがルキアノスは、私のこの忌まわしい眼をもって美しいと褒めてくれた。
講義で、修練で、模擬戦で、良い成績を出すたびに何かと声をかけてくれた。
すごいよ、ギル。
がんばったんだな、ギル。
ギルなら、できるさ。
さすがは、ギルだ。
4歳年上のルキアノスが、そう言ってくれるたびに、心の中で否定し続けてきた。
煽てているだけだ。
これくらい出来て当然、と思っているんだ。
自分の理想を、押し付けているだけだ。
そんな巧い口に、私が乗せられるとでも思っているのか。
品行方正で、明るい前向きな性格。
ファタルを愛し、正義を重んじ、思いやりのある男。
最高の神騎士。
次期法皇の候補者・ルキアノス。
彼を敬愛していたはずだ。
だが、どんなに努力を重ねても越えられない彼の先天的な才能に、歯噛みした。
自分に対して向けていたはずの悔しさは、次第にルキアノスへの憎悪に変わって行った。
どんなに駆けても追いすがっても、ひらりふわりと先へ先へと飛んで行ってしまうルキアノス。
天性の才能を持つ男を、許せなかったはずだ。
彼を、心の底から否定してきたはずだ。
あの聖人君子然とした偽善者の羽をもぎ取り、堕落させてやるつもりだったはずだ。
だのに、なぜ。
(あぁ。だのになぜ、私はこんなにもルキアノスを求めてしまうのか)
情事の後、独りの部屋へ戻った時にはすっかり狂おしいほどの熱は冷め、ただじわじわと苛まれる。
後悔と、反省と、自己嫌悪。
そして改めて、ルキアノスへの愛情に愕然とする。
そして改めて、ルキアノスからの愛情を心底憎む。
彼さえいなければ。
ルキアノスさえいなければ、私は模範正しい神騎士としての自分を、演じ続ける事ができるのに。
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