85 / 216

第四章・13

   だがルキアノスは、私のこの忌まわしい眼をもって美しいと褒めてくれた。  講義で、修練で、模擬戦で、良い成績を出すたびに何かと声をかけてくれた。  すごいよ、ギル。  がんばったんだな、ギル。  ギルなら、できるさ。  さすがは、ギルだ。  4歳年上のルキアノスが、そう言ってくれるたびに、心の中で否定し続けてきた。  煽てているだけだ。  これくらい出来て当然、と思っているんだ。  自分の理想を、押し付けているだけだ。  そんな巧い口に、私が乗せられるとでも思っているのか。  品行方正で、明るい前向きな性格。  ファタルを愛し、正義を重んじ、思いやりのある男。  最高の神騎士。  次期法皇の候補者・ルキアノス。  彼を敬愛していたはずだ。  だが、どんなに努力を重ねても越えられない彼の先天的な才能に、歯噛みした。  自分に対して向けていたはずの悔しさは、次第にルキアノスへの憎悪に変わって行った。  どんなに駆けても追いすがっても、ひらりふわりと先へ先へと飛んで行ってしまうルキアノス。  天性の才能を持つ男を、許せなかったはずだ。  彼を、心の底から否定してきたはずだ。  あの聖人君子然とした偽善者の羽をもぎ取り、堕落させてやるつもりだったはずだ。  だのに、なぜ。 (あぁ。だのになぜ、私はこんなにもルキアノスを求めてしまうのか)  情事の後、独りの部屋へ戻った時にはすっかり狂おしいほどの熱は冷め、ただじわじわと苛まれる。  後悔と、反省と、自己嫌悪。  そして改めて、ルキアノスへの愛情に愕然とする。  そして改めて、ルキアノスからの愛情を心底憎む。  彼さえいなければ。  ルキアノスさえいなければ、私は模範正しい神騎士としての自分を、演じ続ける事ができるのに。

ともだちにシェアしよう!