86 / 216
第四章・14
理性と感情と身体、すべてが噛み合わずバラバラなまま、またこうやってルキアノスと愛し合う。
エントランスから彼の部屋へと昇るエレベーターの中で、二人はすでに我慢できずに口づけ合っていた。
互いの体を衣服の上から激しく撫で擦り、触れ合わせた。
オートドアがゆっくりと静かに開閉し、ロックが掛かるまでの数秒間すら惜しんで、ルキアノスは自室にギルを捻じ込むと手動で戸締りをした。
そして、男二人が同時に通っては狭すぎる廊下を、がたがたと縺れ合いながら進む。
苦しげに呼吸する魚のように、喉を反らせて首をひねらせるギルを許さず、ルキアノスは無我夢中でキスをした。
言葉は、無い。
はあはあと、ただ獣のように熱くて荒い息をギルに吐きかけながら、ルキアノスは貪り喰うようなキスを何度も何度も続けた。
キスをしながら、すでに衣服にまで手をかけている。
ギルのシャツのボタン。
初めこそ、もつれる指で一つ一つ外していたルキアノスだったが、仕舞いには癇癪を起したように引き千切った。
すでにシャツは半分脱がされたような乱れた格好のギルは、ルキアノスの激しい口づけに応じながら彼のベルトに手をかけていた。
息の合間の沈黙は、二人が唇を合わせた時だけ。
それでも擦れ合い、濡れ合って淫靡な音がする。
血をすすり、舐め取る吸血鬼を思わせるような音がする。
まさに互いをすすり舐め取りながら、リビングへ入るとそのままソファに倒れこんだ。
どちらが上か、どちらが下か。
そんな事を選ぶ余裕もないままルキアノスはギルのシャツを脱がせ、ギルはルキアノスの腰のベルトをただカチャカチャいわせていた。
「ギル……、ギ、ルッ! お前は、お前はギルだよな?」
指は空を掻くだけで巧くベルトをはずせないギルに代わって、自分でボトムを下ろしながら、ルキアノスはそう口走っていた。
何を、当たり前のことを。
昨日までのギルならば一笑に付すところだったが、今は違う。
知ってしまったのだ、二人とも。
眼の前にいるギルが、ルキアノスが、もしかすると幼い頃から共に歩んできた人間ではないかもしれない、という事を。
そして『最終戦争の為』という大義名分さえあれば簡単に、当たり前のように自らのクローンと首を挿げ替えられてしまう事を。
ともだちにシェアしよう!