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第四章・15

 唸り声を上げながら、ルキアノスがギルの唇どころか顔中にキスを始めた。  いや、キスというより甘噛みだ。  噛むという行為は次第にエスカレートし、こめかみから額にかけてギルは鋭い痛みを感じた。  皮膚が切れて、血がにじんできたらしい。  ルキアノスがその場所を何度も何度も舐めているので見当がつく。  彼の右の犬歯は、非常に鋭く尖っているのだ。それで傷がついたのだ、きっと。  ステリオスも、俺と同じで右の犬歯が尖ってるんだ  いつかそう言って、15歳も年下の弟との遺伝を喜んで見せたことがあったっけ。  同じ遺伝子を持つ、血のつながった兄弟の絆を嬉しく話してくれたっけ。    ルキアノスには、ステリオスがいる。  だが私には。  私には、ルキアノスしかいないじゃないか。  名前を呼ぶ代わりに、ギルはルキアノスの首筋を思いきり吸った。  力強く拍動する頸動脈の響きに、酔った。  そこを何度も吸い、甘噛みし、舐めて癒した。  赤い痕が残るくらいに。  ああ、そしてあの地下に眠るルキアノス達にも、同じような痕が浮かぶのだろうか。  彼らは、私と抱き合ってもいないのに。    ソファの背もたれを右手で、クッションを左手できつく握りしめ、ギルは背後からルキアノスに貫かれていた。  床に膝立ちしてソファに身を預け、半ば顔を埋めるような姿勢で揺さぶられていた。  前戯も何もなかった。ローションも使わず、スキンさえ付けずに、ルキアノスはギルの体内に挿入ってきた。  スキンを付けてくれないか。  以前、ただ一度だけそう言ったギルの言葉を、いつまでも義理堅く守り続けてきたあのルキアノスが、だ。 「うッ、うッ、ぐうぅッ」  歯を食いしばって、ギルは痛みに耐えた。  剥き出しの腰を強く掴まれ、何度も何度でも出挿入りするルキアノスの肉茎と自らの内壁の擦れに耐えた。  漏れ出すのは、快楽とは程遠い苦悶の声。  ソファに顔を埋め、仕舞いにはクッションを噛みしめて耐えた。

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